「……アンヌ。」
「はい、何でしょうか?」


空になったティーポットにお湯を注ぎ足して戻ってくると、シュラ様は再び隣に座るようソファーをポンポンと叩いた。
先程の教訓、あからさまに離れて座るとシュラ様の攻撃が凄まじい。
今度は極自然な距離感で、その隣に腰を下ろした私は、二つのカップに二杯目の紅茶を注ぐ。
そして、ポットをテーブルに置くと同時に、待っていたかのようにシュラ様から声が掛かった。


「アンヌも、夕食に誘われるのは嬉しいと思うのか?」
「そうですね……。」


これは明らかに先程の私の言葉に反応してのもの。
私も一応、女性の部類には入るので、意見を聞いてみようという魂胆かしら?


「こういうお仕事してますから、そうそう外食なんて出来ませんしね。だから一層、嬉しいと思う……、のではないでしょうか?」
「オイ。何故、疑問系だ?」
「いえ、まぁ、それは……。誘ってくださる相手とか、タイミングとか、誘い方とか、それによっても色々と変わりますでしょうし。」
「そうか……。」


シュラ様は顎に手を当てて少しだけ考え込んだ後、ゆっくりと紅茶を啜る。
ゴクリと飲み込む際の喉の隆起が男らしい。
こういう無意識の動作って仄かな色気が醸し出されて良いのよね、なんてボンヤリ思いながら眺める私。
そんな私の考えなど露知らず、シュラ様は大きく一つ頷いて、それから手にしていたカップをテーブルの上に置いた。
あぁ、何かの決心がついたのね、と思って見ていた矢先。
いつの間にか背後に回されていたシュラ様の腕が、私の肩を引き寄せていた。


「今度、一緒にディナーをどうだ、アンヌ? 市街に美味いスペイン料理の店を知ってるのだが。」
「私を誘って、どうするのですか? 相手を間違ってますよ、シュラ様。あ、それとも予行演習ですか?」
「……。」
「……。」


誘われて嬉しくない訳じゃないし、寧ろ、この高望みしがちな胸は益々、ドキドキと高鳴っている。
それでも、それが本気の言葉ではないと分かっているから、うっかり期待してしまうだけ落胆も大きい。
肩を引き寄せたりだとか、色気たっぷりな流し目付きで食事に誘ってみたりだとか、そういう事は心に想う相手にだけしてくだされば良いものを。


「予行演習なら、私以上に良い反応してくれる子が沢山いるじゃないですか。そちらで試された方が良いのでは?」
「女は面倒だと言っただろ。それに、心にもない相手を誘ったトコロを、大事な女にでも見られてみろ。そんな事で嫌われては、意味がなくなる。」


肩を引き寄せた手は離さないまま、途端にムスッと御機嫌斜めになるシュラ様。
まるで大きな子供が大人の色気を身に纏ってしまったかのよう。
自覚がないから、余計に性質(タチ)が悪い。


私は肩を引き寄せるシュラ様の手から逃れるように身を屈め、テーブルに乗っていた自分のカップを手に取った。
一口啜り、ホッと息を吐く。
その一連の動作で、この話は終わり。
そうするための行動だったのだが、鈍いシュラ様が相手では、そうはいかなかった。





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