そうだ。
シュラ様だって、立派な成人男子だもの。
あのような生活をされているとはいえ、女性に興味がない筈はない。
面倒だとか言っていたのは、相手が好きでもない人だからであって、誘ってきた相手が好きな人だったなら、きっと喜んで出掛けて行くのだろう。


話の内容からするに、今はまだ告白の段階までいっていないようだけれど。
あの素敵なシュラ様に「好きだ。」と言われて断る女性が、この世にいるとは思えないない。
これは、また近々、新たな職場を探さなければいけない事になるかもしれないわ。
さっきは私の事を「手放す気はない、ずっといて欲しい。」だなんて言っていたけど、それは単なる褒め言葉。
本気にしちゃいけなかったのよね。


シュラ様は、デスマスク様と同じように、私のために新しい職場を探してくれるだろうか?
そんな事を思いながら、でも、もし磨羯宮を出て行く事になったなら、いっそ宮付き女官の仕事は辞めてしまおうかとも思う。
シュラ様との生活の後では、きっと何処に行っても味気なく、意気が上がらない気がするから。


「……こんにちは。」
「っ?! あ、アンヌ?」
「ぁあ? どうしたよ、オマエ。何? 俺の事が恋しくなったか?」
「相変わらずの口達者ですこと、デスマスク様。ちょっと通り掛ったついでに、ご挨拶に伺っただけです。」
「ちっ、可愛気がねぇのは数日じゃ変わんないってか。」


慣れた調子で交わされる言葉の遣り取り。
デスマスク様との会話は、次に返ってくる言葉が予測出来るから、とても楽だ。
シュラ様との会話のように、予想外の言葉や、想定外の展開に、いちいち戸惑ったり焦ったりしなくて良い。
それはとても安心して話せる反面、何処か物足りないと言うか、味気ない気もしている自分がいた。
今の私は、常にドキドキの堪えないシュラ様との会話に、楽しみすら覚えているのかもしれない。


「で、何処に行ってたんだい? そんなに大きな荷物を持って。」
「祭祀場の森の奥にある修練場です。今、候補生達が修練をしているんですけど。」
「あぁ、アソコか。あんなトコまで、なンでまた?」
「シュラ様に頼まれたんですよ。昼食を持って来いって。お陰でクタクタです。」
「ふふふ。これはまた随分と扱き使われているようだね。」


アフロディーテ様はクスクスと楽しげに笑ったが、私にとっては笑えない。
今回だけの事なら多少は我慢して往復もするが、これが毎回となると、辟易するなんて言葉じゃ済まないだろう。
ある意味、私にとっても『修練』になりそうなくらい。
少なくとも、確実に足の筋肉は鍛えられそう、重い荷物を持っての、この階段の上り下りは。
それに今の季節ならまだ大丈夫だが、もう少し夏に近付けば、確実に身体が持たない。


「アンヌ、冷たい紅茶でもどうだい?」
「ありがとうございます。喉がカラカラだったんです。」
「オイ。ココは俺の宮だぞ。なンで、テメェが茶を勧めてやがる。」
「良いじゃないか。色々と分からない事も出てきて、彼女に聞いておきたいんだろう? なのに、お茶の一杯も出さないなんて横暴だよ。」
「へーへー。」


グラスに注がれたアイスティーが午後の光を吸収し、置かれたテーブルの上に琥珀色の影を作った。
美しく施されたグラスの模様に揺らめく陽の光に、心も何処か揺れ動く。
折角、お二人が揃っているのだもの。
私も知りたい事を聞いておこう、このチャンスに。
これまで、ちゃんと理解していなかった日常のシュラ様の事を……。





- 2/5 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -