デスマスク様が取り出したのは、ペーパーバッグよりは大きめの本のようなものだった。
頑丈な表紙と、それなりの厚み。
そして、外側には紙でカバーが掛けられていて、それが何であるのか、外から見た人には分からないようになっている。
だが、持ってきてくださいと頼んだ以上、私はその中身が何であるのかは良く分かっていた。


「さぁて、どっからお披露目してやろうか……。」
「おい、デスマスク。何なのだ、それは?」
「さぁて、なンだろうなぁ。ま、聞いてのお楽しみってトコだな。」
「どういう意味だ?」


ベッドの上から彼を見上げる歩美さんは、頭の上に大量の疑問符を浮かべ、成り行きを見守っている。
その脇に立つアイオリア様は、大きく首を傾げて、ニヤリと笑んだデスマスク様を訝しげに見ている。
それもそうだろう。
彼等とってみれば、これから一体、何が起こるのか、まるで想像も出来ないのだから。


「お、ココだな。ココなら、効果的でサイコーだ。」
「あの、デスマスク様。余り過激なところは……。」
「煩ぇ、アンヌ。オマエは黙っとけ。」


少しだけ覚えた嫌な予感に、咄嗟に口を挟もうとした私だけれども、それも簡単にピシャリとシャットアウトされてしまった。
例え、この状況を作り出した私と言えど、文句を受け付ける気はサラサラないらしい。
今にも鼻歌でも歌い出しそうな程に楽しげな様子で、開いたページに視線を落とし、目視して内容を確認している。
こうなれば、もうこの人の独壇場だ。
デスマスク様が調子に乗り過ぎると危険だと分かっていながら呼んだのは私自身なのだから、今は黙って事の行方を見守るしかない。


「よぉし、アイオリア。耳の穴かっぽじって良ぉく聞いとけ。」
「だから、それは何だと……。」
「七月五日、晴れ。今日は足の痛みも少なく、身体の調子も良好だ。」
「っ?!」
「??」


歩美さんの目が見開かれる。
一方、アイオリア様も目を見開きはしたが、どちらかというと、それはキョトンとした表情に近い。
二人のその差は、デスマスク様が読み上げている内容が何であるのか、知っているか、知らないか、その違いだけ。
そう、デスマスク様が持ってきたのは、私が先日、歩美さんの部屋で見つけた彼女の日記だった。


私は、その日記の中に、歩美さんの内部に潜んでいた鬼神に対する無意識の予兆のようなものが現れてはいないだろうかと思い、それを持ち出して、日本語の分かるデスマスク様に見てもらった。
だが、それを読んだデスマスク様は、『相手に渡す気のねぇラブレターみたいなモン』と言い放った。
そこにはアイオリア様への想いと、彼と過ごす日常が事細かに書かれているのだと。
それを聞いて、私は元の場所へと戻すつもりだったが、デスマスク様が「後々に役立つだろうぜ。」と、私が預かっておく事を提案し、そのまま私が持っていたのだ。
そして、鬼神との闘いが終わり、歩美さんの意識が戻った後は、それをデスマスク様の手に委ねていた。
私が持っていると、シュラ様に見つかってしまう可能性があったからだ。


デスマスク様は、この日記を見た時に言っていた。
「アイツ等、二人揃って素直じゃねぇ。アイオリアに至っては、頑なに意地を張ってやがる。もし、無事に女を助け出せたとしても、その後のアイツ等が上手くいくとは思えねぇンだ。」、と。
あの時、既に、デスマスク様は今の事態を予想していて、だからこそ、日記を返すべきじゃないと提案したのだろう。


歩美さんを無事に助け出したとしても、それで二人の仲が進展するとは限らない。
寧ろ、このまま意地の張り合いが続き、二人の関係は何も変わらないかもしれない、それが本人達の本意ではないとしても。
そう、あの時に思った、まさにその通りの事態に、今のアイオリア様と歩美さんの二人は、見事に陥っていた。





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