「歩美さんは、アイオリア様との仲を改善したいんですね?」
「ええ、勿論。」
「では、私が今から何をしても、怒らずに、黙って見ていてくれますね?」
「え……、えぇ。」


一体、何をする気なの?
そう言いたげに視線を送る歩美さんには何も返さず、私はベッド脇の椅子から立ち上がった。
そのまま真っ直ぐにドアから部屋を出て、廊下の壁に寄り掛かっていたアイオリア様へと近付いた。
カミュ様の姿は既にないところを見ると、執務に戻ったのだろう。


「アイオリア様。申し訳ないのですが、急いでデスマスク様を呼んできてくださいませんか?」
「デスマスクだと? 奴が何か……。」
「大事なお話があります。直ぐにココへ来ていただきたいのです。その際、例のアレを持ってきてくださいと、お伝えください。」
「例のアレ?」
「そう言えば分かります。お願いしますね、アイオリア様。」


問答無用でアイオリア様の背中を押し、巨蟹宮へと追い立ててから、部屋の中へと戻る。
ベッドの上の歩美さんは、キョトンとコチラを見ていたが、私は気付かぬ振りをして、彼女に背を向けた。


「お茶を淹れますね。歩美さんは紅茶で良いですか?」
「あ、えぇ、お願い。」


用意されていたティータイムのセットには、コーヒーや紅茶、そして、日本茶までも揃っていた。
紅茶も一種類ではなく、ダージリンにウバ、アールグレイ、それにフルーツティーも数種類。
その中からピーチティーを選び、ガラスのティーポットにお湯を注ぐ。
窓の外には青空が広がっていて、部屋の中にいても薄らと汗を掻く程だったのを思い出し、部屋に置かれた小さな冷凍庫の中から氷を取り出してグラスに入れ、そこに濃い目に淹れたピーチティーを注いだ。
ふわり、甘い香りが漂い、その心地良い香りにホッと息が漏れた。
グラスには大粒の汗が伝い、カロンと一気に溶けた氷が揺れて、心地良い響きを耳へともたらしてくれる。


「どうぞ、歩美さん。」
「ありがとう。良い香りね、ピーチティー?」
「はい。他にも色々と置いてありました。飲みたいものがあったら教えてください。お淹れします。」


それから暫くの間は、二人で黙ったまま紅茶を啜っていた。
デスマスク様が駄々を捏ねない限り、もう少しすれば、アイオリア様と二人で姿を現すだろう。
それまでの間の、今は息抜きの時間だ。


――コンコンッ。


扉をノックする音に、二人してそちらを振り返った。
私は素早く立ち上がり、扉を薄く開いて、外を確認した。
廊下にいたのはアイオリア様、そして、口元に薄く笑みを浮かべたデスマスク様だった。
この表情……、これから起こるだろう事を想像し、明らかに楽しんでいる様子。
私は軽く溜息を吐き、彼等を部屋の中へと通した。
勿論、中へ入る事を渋ったアイオリア様についても、その腕を取って、強引に中へと引き入れた。


「アイオリア……。」


歩美さんがサイドテーブルにグラスを置いた音が、カタリと響く。
それが妙に重々しく聞こえたのは、きっと気のせいじゃない。
アイオリア様が部屋に入った途端に、空気が変わったのだ。
重く分厚く、それでいて、触れると脆く砕けてしまいそうな、そんな繊細で息苦しい空気に。


私は部屋の真ん中に立ち尽くすアイオリア様の背中を押し、ベッド脇の椅子まで追い遣ると、彼をその椅子に座らせて、それから、横のデスマスク様に視線を向けた。
特に、何をどうするとの打ち合わせもなかったが、流石はデスマスク様だわ。
私が何を目論んでいるのか、全てお見通しのよう。
そして、彼はシタリ顔で脇に抱えていた『もの』を取り出してみせた。
口元には、いつものニヤリ笑いを貼り付けたままで。





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