「つまりは記載漏れ、ですか?」
「そうなるだろう。アイオリアが確認した記録書には、あの遺跡の神殿跡の下に禍物を封印したと、その事以外は何も記載がなかった。過去に関連する事件があった、関連する記録がある等の事は、一切、見受けられなかった。」


という事は、だ。
記録書からは遡る事が出来なかったけれど、実際には、その禍物の封印に関連した『何か』が、過去に起きていた、と。


「そうだ。何処にあるのか、いつ起きたのかすら分からぬ記録を、教皇宮の書庫で探していたのだ。」
「しかし、どうして、それがあると分かったんだ?」
「アイオロスの勘だ。きっと何かある。我々が見逃している何かが。そう思って書庫を漁っていたそうだが、流石に一人では限界があったようでな。それで私を呼んだそうだ。」


それにしても、本当に存在するのか判然としない記録を、これだけの短時間で探し出すとは、カミュ様の探索能力も凄いが、それが必ず存在すると信じて探し続けたアイオロス様の判断も凄いと思う。
あの方の頭の中には、アイオリア様からの報告を受けた時から、その記録の事が浮かんでいたのだわ。


「それで、カミュ。見つけた記録は、どんな内容だったのですか?」
「それは……。」


一度、言葉を切り、チラリとアイオリア様を見遣るカミュ様。
大丈夫だ、そう言うが如くに小さく頷くアイオリア様。
それを受けて、軽くホウッと息を吐き、カミュ様が話し始めた。


「見つけたのは、禍物を神殿跡に封印した時から、更に五年前の記録だ。まさに同じ遺跡で、民間人には手も足も出ないような怪事象が起こり、黄金聖闘士が派遣されている。記録には、その原因となる化物を二体、その遺跡の中に封印したと書かれていた。」
「っ?!」
「あの遺跡の中に、別の封印が存在していたのですか?」
「そうなるな。」


聖域が注意を払っていたのは、遺跡の中心にある神殿跡だけだった。
そこに絶対に解放してはいけないレベルの禍物が眠っている。
それは記録を見るまでもなく、神官サイドでも熟知していた事だったので、そもそもの初めから、神殿跡の発掘を許可しなかったのだ。


だが、その他の場所は違う。
神殿の両脇の建物、神殿へと続く回廊、広大な庭園。
それ等の跡地は、発掘禁止の対象とはなっていなかった。
歩美さんが参加していた発掘隊の主な調査箇所は、確か神殿跡の両脇にあった二つの建物跡地だった筈。
もし、その発掘の際に、封印が緩んでしまうような事があったなら……。


「封印されていた化物は二体。一体は水を操る鬼神、もう一体は風を操る鬼神だ。多分、神殿に封印した禍物は、より高位の邪神で、その二体の鬼神は、邪神の従属神ではないかと報告が残されていた。」
「で、その封印の場所は、何処なんだ?」
「神殿の両脇の建物に一体ずつ。最初の封印から一度も再封印されていない事から、アテナの護符は既に剥がれ落ちていただろうと思われる。封印自体、相当に弱くなっていた可能性が高いな。」


そこにアテナ様の護符が残されていれば、発掘隊の人達も調査を躊躇ったかもしれない。
そうなれば、彼等は政府に、そして、政府は聖域に、何らかの報告が為されていたに違いない。
となれば、もっと早くに過去の記録を探していただろうし、封印の大小に係わらず、聖域の圧力によって発掘は中止になっていただろう。


何もかもが上手くいかない、歯車が噛み合わないとは、こういう事を言うのか。
悪い時には悪い事が重なる。
私は息を飲んで、黄金聖闘士様達の遣り取りを見守っていた。





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