「カミュ様。どうぞ召し上がってください。」
「すまない、アンヌ。助かる。」


皆が見守る中、ゆっくりとソファーに座ったカミュ様は、期待の色に満ちた周囲の視線には応じず、私が差し出したサンドイッチを摘み始めた。
アイオロス様に呼ばれてから、ずっと休憩も取れなかったのか、やっと落ち着けたとばかりに、暫くは黙って食事を続ける。
最後に温かな紅茶を一気にゴクゴク飲み干すと、ホウッと短い息を吐いた。


「……カミュ。」
「あぁ、すまない。随分と空腹だったのでな。待たせてしまった。」
「構いませんよ。それで貴方はアイオロスに呼ばれて、何をしていたのです?」


構わないとムウ様が言った途端、アイオリア様の顔が明らかに曇ったが、口を挟む事なく、そのまま押し黙る。
今は焦るよりも、カミュ様の持つ情報を聞きたい、というところだろうか。
もう一口、紅茶を啜ったカミュ様が、カップを受け皿に戻すカチャリという音が、ヤケに大きく響いた。


「アイオロスに頼まれて、書庫で過去の記録書を調べていたのだ。」
「それは一体、何のためだ?」
「アイオリアは……、任務の前に勿論、過去の経過は調べただろうとは思うが、どうだ?」


アルデバラン様の問いには答えず、逆に自らがアイオリア様へと問い掛ける。
向けるのは、カミュ様がアイオロス様に呼ばれた訳が、そこにあるのかと思えるような真剣な眼差し。
それに対して、同じだけ強い視線で応じて、アイオリア様が「当然だ。」と答えた。


「お前が見た記録書は、一冊だけだったか?」
「あぁ、そうだ。他にも関連する記録がないか探しはしたが、何も見つからなかった。」
「……だろうな。」


カミュ様の相槌に、アイオリア様の眉が訝しげに潜められた。
それと同時に、その場の空気がザワリと揺れる。
全員の鋭い視線が、一斉にカミュ様へと向けられた。


「最初に言っておく。お前は悪くない、アイオリア。それがあるだろうと思って探した私達ですら、それを発見するのに、これだけの時間が掛かったのだ。」
「どういう事だ、カミュ? 俺達にも分かるように説明してくれ。」
「過去の記録が……、一冊だけではなかったという事だ。」


ザワリ、再び部屋の空気が大きく揺れた。
聖闘士である彼等にとって、下調べは大事だ。
特に、今回のように過去の封印が絡んでいる任務の場合、記録書の確認は絶対必須。
その封印が施された時、どのような事が起こったのか。
どんな相手が封印されているのか、他に警戒すべき事象はなかったのか。
全てを頭に入れておかなければ、対応出来ない事も多くある。
だからこそ、過去の記録の調べ漏れなどあってはならない事だった。


「記録書が、もう一冊だと? しかし、俺が探した限りでは……。」
「だから、お前は悪くないと言った。だが、こういう事もあるものなのだな。しかも、このような特に大事な場面で、それにぶち当たるとは……。」
「っ?!」


普通、任務の報告書、記録書を作成する時には、過去に関連する事件があった場合、それがどういう事件で、いつ起こったものだったのか、そして、その記録書の所在を短く纏めて記載しておくものだ。
しかし、アイオリア様の、この驚愕の表情を見れば、その記載が無かった事は火を見るより明らかだった。





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