ど、どうか、鼓膜を破ったりとか、耳に甚大な損傷を与えたりするような事は起こりませんように!


シュラ様の膝の上、私は心の奥で、アテナ様にひたすら祈っていた。
彼の無骨さ、乱暴さは、自分の目で見て良く知っている。
テーブルの上のものを払い落としたり、面倒の一言と共に何でもずさんに扱ったり。
そんな彼が耳掻きをしようというのだ。
当たり前に恐怖心が湧き起こるに決まっている。


「そんなに固くなるな。リラックスしていろ。」


いえ、そう言われましても、耳掻きをする人がシュラ様である限り、それは絶対に無理です。
昨夜なんて、酷く開け難い紙の容器に痺れを切らし、両手で握って引き千切ったのを目撃している。
聖闘士の腕力はとんでもないわと改めて思うのと同時に、彼の相変わらずな乱暴さに辟易とした。
兎に角、そんな状況を普段から見ているのだ。
力を抜けといわれても、「はい。」と言って出来る訳がない。


そんな私の様子を流石に見かねたのか、伸びてきた彼の手が、そっと髪に触れ、そしてゆっくりと撫でた。
それで多少は緊張感が緩んだが、今度は別の嫌な予感に襲われる。
何だか、また怪しい雰囲気になってきたような気が……。


そんな事を思っている間に、彼の手が耳に触れた。
反応しないでおこうと思っていても、勝手にビクッと揺れる身体。
相手がシュラ様だと思うと、それだけで、もう駄目みたい、私の身体は。


「あっ……。」


予想外に優しく、いや、優し過ぎるくらいにそっと耳掻き棒が耳に触れた。
そのヒヤリとした感触に思わず小さな声が漏れる。
やだ……、今のちょっとエッチな声だったわ、恥ずかしい……。


そのままシュラ様は信じられない程、丁寧に耳掻きを続けた。
本当だ、とても心地良い。
眠くなってしまうのも良く分かる。
こう、ふわふわと身体に纏う軽い電流というか、うなじや首筋に触れられた時に感じる甘く軽い痺れのようなものが、絶えず全身を包むこの感覚。
耳たぶを摘むその指が、ずっと触れていてくれたらとさえ思える程に、柔らかな心地良さ。


「どうだ? 気持ち良いだろ?」
「……ん。」


まともな返事をする事さえ難しい。
そのくらいうっとりとシュラ様に全身を預け、無防備に力の抜け切った自分を晒してしまっている。
分かってはいるのだけど、この心地良さにフワリと包まれた今は、何がどうなっても良いとさえ思ってしまっていた。


「こっちの耳は終わった。反対を向け。」


言われるがままに身体の向きを変る。
一瞬だけ真上を向いた時に、シュラ様と目が合ったが、私は直ぐに目を瞑っていた。
そして、そのまま心地良い甘い痺れに包まれて、私は思い掛けなく知った初めての感覚を、うっとりと享受していた。





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