反対側の耳掻きを始めて数分。
シュラ様はジッと押し黙っていた。
耳掻きの最中だからという事もあるだろうけれど、それにしても大人し過ぎるような気がする。


やっぱり、怒ったのかな?
怒るまではいかなくても、不機嫌にはなるだろう。
あんな風に良い雰囲気になったところまでいっておいて、結局は寸止めされた形になったのだから。
しかも、彼の行為を煽ったのは明らかに私の方なのだし……。


「あの……、シュラ様。耳掻き終わりましたけど……。」
「……ん? あぁ、そうか。」


恐る恐る声を掛けた私に対して、返ってきた彼の声は寝惚け声。
なんだ、怒ってた訳じゃなくて、眠っていたから大人しかったのね。


「凄く気持ち良くて、思わず寝てしまった。」
「そうですか。良かった……。」
「ん?」
「あ、いえ。その、シュラ様がご機嫌斜めになってしまったかと思ったものですから……。」


私の言葉を聞いて、シュラ様は小さな溜息を吐いた。
次いで、おもむろに身体を起こした。
彼の重たい頭がなくなり、膝の上が軽くなった反面、その頭の温もりが無くなってしまった事に寂しさも感じる。


「何故、俺が不機嫌になるんだ? アンヌの気持ちが整うまで手を出さんと決めたのは、俺自身だ。だったら、お前に対して怒る理由など全くない。違うか?」


それは確かにそうですが。
だからと言って、あんな状態までなって寸止めされたとあっては、怒りで不機嫌になってもおかしくない。


「……アンヌ。」
「は、はい。」
「ココに横になれ。」
「え、ココって……。」


少々、呆れた口調で私の名を呼ぶと、シュラ様は自分の膝の上をポンポンと叩いてみせた。
それは、彼の横、ソファーの空いた場所に座れと合図する時と、全く同じように。


「あの、それって、もしかして……。」
「いつも俺ばかりやってもらっては申し訳ないからな。」
「いえ、でも……。」
「心地良いぞ。人に耳掻きをしてもらうのは。」


そう言って、私の肩を抱き寄せた彼は、そのまま強制的に私の身体を倒した。
今、私の頭はシュラ様の膝の上にある。
い、幾らなんでも、これはちょっと……。
いつもとは別の緊張感が襲い、全身から冷や汗が流れ出た。


「どうだ、俺の膝の上は?」
「どうと聞かれましても……。あの、かなり硬い、です。」
「そうだろう、女のお前と違うからな。それに殆どが筋肉だ。」


分かっているなら、せめてクッションを!
シュラ様の腿に頭を預けているというだけでも、鼓動が三割り増しに早くなってるんですから!


彼がテーブルの上に乗っていた耳掻きを手に取ったのを見て、私はギュッと目を閉じた。
そして、これから起こるだろう恐怖の瞬間に、身体を固く竦ませていた。





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