床に脱ぎ捨てられたままのシュラ様の衣服を掻き集め(勿論、下着も込みで)、ベッドからシーツと枕カバーを引き剥がすと、私はそれを抱えてシュラ様の寝室を出た。
抱えていたものを洗濯機の中に放り込み、直ぐに自分の部屋へと戻る。
顔を洗って、歯を磨いて、服を着替えて……。


着ていた夜着を頭からバサリと引き抜けば、ふわりと香ってきたのはシュラ様の匂い。
その一瞬だけ感じた移り香に、ハッとして息を呑む。
慌てて自分の腕や肩に鼻を近付けて匂いを嗅いで確かめると、全身から微かなシュラ様の匂いがしていた。
いつも彼が使っているありきたりな石鹸の香りと、僅かな汗の匂いが混じった、そんなシュラ様の匂い。


顔が火照って熱くなる。
ただ一緒のベッドの中で寝ていただけなのに。
匂いが移ってしまうような行為をした訳でもないというのに。
一晩中、抱き締め合っていただけで、こんな風に移り香を貰ってしまうものなのね。
という事はシュラ様にも私の香りが……、あのオレンジのボディーミルクの香りが移っているのだろうか?
何と言うか、お互いにお互いの香りを移し合い、交換し合ったみたいで、愛の行為を交わしたのと同じくらいの親密さを感じてしまう。


着替えを済ますと、私はもう一度、冷たい水で顔を洗った。
火照った顔の熱と、頬の赤味が消えない。
仕方なく、少し濃い目のメイクでそれを誤魔化すと、私はいつもと同じように、お仕事に向かった。


朝食の準備をしながら、何気なく窓の外を眺める。
霞んだ景色は一向に晴れる気配はなく、今日は一日中、こんなぼんやりとした天気が続くのかもしれない。
気温も高くならず、お陽様も顔を出さないようなら、午前中から獅子宮に顔を出してみようかしら。
何だかんだ言っても、やっぱり心配なのだ、アイオリア様と歩美さんの事が。


――パタンッ!


遠くからドアの開閉音が響く。
シュラ様が早朝トレーニングから戻って来たのだろう。
霧雨とはいえ、少しの外出なら兎も角、長時間、外で身体を動かしてきたのなら、しっかりと濡れてしまっているに違いない。
私は慌ててバスタオルを手に、リビングへと向かった。


が……。


「きゃっ!!」
「ん、アンヌか?」


忘れてた!
大事な事を忘れてたわ!
シュラ様はトレーニング後、服を脱ぎながら部屋を横断していくんだった!


「タオルを持って来てくれたのか? ならば何故、背を向ける?」
「シュラ様が、ぬ、脱いでる途中だからです!」


私がリビングに足を踏み入れた時には、既に上半身は裸で、丁度、トレーニングウェアのズボンに手を掛けているところだった。
あ、危なかったわ。
間一髪で、またもシュラ様の真っ裸を見てしまうところだったのだから。





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