6.恋の不思議
ふと、突然に深い眠りから覚醒した。
どうして目が覚めたのか、自分でも分からない。
でも、徐々に現実世界へと浮上していく意識に合わせて、ゆっくりと瞼を開けば、薄暗い部屋が霞んだ視界に映った。
と、急に自分の居る場所を思い出し、飛び起きる。
そうだわ。
私は昨夜、シュラ様と同じベッドの中で眠ったんだった。
だが、飛び起きると同時に、自分が腕を回していた『モノ』が、グニャリとひしゃげた感覚がして、慌てて視線を落とした。
腕に抱いていたのは枕だった。
ベッドの上に、シュラ様の姿は既にない。
床には昨夜、彼が脱いだ服が散らかったままの状態。
目を上げれば、開いたままのクローゼットが目に入る。
眠っている私を起こさないよう、音を立てずに着替えて出て行ったのだろう、日課の早朝トレーニングに。
という事は、部屋がまだ薄暗いといっても、もう朝なのだわ。
時計を見ると、丁度、いつも私が起きているのと同じ時間だった。
それにしても、シュラ様ったら。
ご自分がベッドを抜ける時に、彼に抱き付いていた私の腕を解いた後。
そのまま、そこに自分の枕を抱かせていったのね。
きっと違和感で目を覚まさないようにとの配慮だろう。
そういう配慮は忘れないのに、散らかした服を片付けようとか、クローゼットをちゃんと閉じていこうとか思わないのは、全くシュラ様らしいと言うか……。
私は腕に抱いていた枕を、形を整えてから元の場所に戻すと、ベッドから抜け出した。
ずっと同じ体勢で寝ていたせいか、身体は多少重かったが、頭はスッキリとしている。
驚く事に、あんなにシュラ様の事を警戒していたクセに、実際、彼の腕の中に抱き締められると、不思議と強い安心感を覚えて、私は無防備に爆睡してしまったのだ。
それも、自分で呆れるくらいにグッスリと眠った。
鏡の前、夜着に包まれた自分の身体を繁々と眺める。
着衣に乱れは一つもない。
身に覚えのない痣の類も見当たらない。
身体に痛みも違和感もない。
シュラ様は誓いの通り、私には手を出さなかった。
寝ている間にキスくらいはされたかもしれないけれど、私を襲うような事は決してなかった。
正直、あの状況で我慢をするのは辛かっただろうと思う。
それでも、彼は私の気持ちを最優先してくれた。
その優しさと忍耐力の強さに、ただ感服するばかりだ。
窓の外を眺める。
連日続いていた晴天から一転、どんよりと暗い雲が聖域の上空を覆っているのが見えた。
昨日までとは比べ物にならないくらいの低い気温。
ひんやりと視界を霞ませる空気は、どうやら霧雨が降っているようだった。
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