夕食後。
片付けを終えた私は、シュラ様に手招きで呼ばれて、彼の隣に腰を下ろした。
以前から距離は近かったが、今では遠慮なく肩を抱き、必要以上に密着してくる。
夜とはいえ夏だし、正直、暑いのだが、それを訴えたところで手を離してくれる人ではない。
私は諦めて、大人しく彼の隣で小さく身を竦ませた。


「明後日は休みだが、市街に買物へ行くか?」
「え?」
「彼女に色々と頼まれているのだろう? 行くなら早い方が良い。」
「あ、はい。そうですね。助かります。」


でも、天気が悪ければ日中でも問題ないが、晴天だった場合は夕方にならなければ外出は出来ないだろう。
街中で熱中症を引き起こして倒れたら、それこそ大変だ。
あまり遅い時間にシュラ様を連れ回すのは気が引けるなと思っていたら、彼は軽く肩を竦めて、私の頭をポンポンと軽く叩いた。


「そのような事、遠慮する必要はない。」
「でも……。」
「俺はアンヌの雇い主ではなく、恋人だ。今は対等な立場なのだから、遠慮は無用。分かったな。」
「は、はい……。」


返事はしたものの、納得いかないという思いが表情に出ていたのだろう。
シュラ様は軽く溜息を吐いた後、身を屈めて私の唇にキスを落とした。
始めは触れるだけ。
それから、角度を変えて何度か擦り合わせた後、薄く開いた唇の隙間から、一気に深く濃厚なものへと変わっていく。


「んっ……、は、あ……。」


これは私達が『恋人同士』である事を分からせるためのキスだ。
主従関係ならば、こんな口付けは有り得ないだろうと、そう私の心へと突き付けてくるキス。
触れる唇の熱さで、絡まる舌の動きで、抱き寄せる腕の力で、それを教え込もうとしているのだ。


「はぁ……、はぁ、はぁ……。」
「これで理解したろ、アンヌ。」


やっと解放されて、でも、まだ呼吸もままならない私に向かって、最高にセクシャルな笑みを浮かべるシュラ様が、霞んだ視界に揺れている。
スッとこめかみから髪へと差し込まれる、しなやかな指。
地肌を滑るその感触に、ゾクリと全身に震えが走る。


「お前は俺のものだが、俺もお前のものだ。いい加減、それを理解しろ。」
「あ、あの……。」
「何だ?」
「もう少し……、手加減してください。」


いつもいつも、こんな全力のキスをされていたのでは、身も心も持たない。
身体は呼吸困難で苦しくなり、心は意思を離れてフワフワと浮かび、勝手に妙な熱を帯びてきてしまう。
それが何ともムズ痒くて、上手く言えないけれど、こうモヤモヤとしてきてしまうのだ。


「つまりは、我慢出来なくなってきた、という事か?」
「っ?!」
「違うのか? そうであれば、俺にとっては嬉しい事、この上ないのだが……。」
「あ、あの、えっと……。」


言われてみれば、そうなのかもしれない。
だけど、だからと言って、そう簡単に全てを許せるかと言うと、そうでもなくて。
私は、グッと喉の奥に言葉を詰まらせた。





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