5.もどかしい関係



結局、私はシュラ様の言葉に従い、獅子宮の様子を見に行く事はしなかった。
もし、歩美さんがアイオリア様と話し合い――、それは言い争いになっているかもしれないけれど、そうしている最中であったなら、私が行っても邪魔になるだけだもの。
ここは大人しく明日の夕方までは訪問しないでおこうと決め、それまでは自分の仕事に専念しようと努めた。


しかし、気になるものは、やはり何をどうしていても気になるもので。
気が付けば、掃除機のホースを握り締めたままリビングの真ん中でぼんやりしていたり、動きを止めた洗濯機の前で考え事をしている自分がいた。
そうなる度に、そんな自分に対して苦笑を漏らし、仕事の間だけは忘れようとするのだが、それはどうにも上手くいかなかった。


夕刻になり陽が傾くと、私は直ぐに磨羯宮を飛び出した。
向かった先は、聖域内の市場。
いつものお店で頼んでいたものを受け取ると、私はその足で日用品を取り扱うお店へ向かった。


陽が沈み掛けているとはいえ、夏の暑さは侮れない。
普段なら絶対に寄り道などせず、真っ直ぐに磨羯宮へ帰るのだが、今日はそうもいかなかった。
歩美さんから頼まれた品物――、獅子宮の男性従者さんでは用意し難い下着や衣類を幾つか買う必要があるからだ。


と言っても、聖域内で買える洋服には限りがある。
取り敢えずの間に合わせ程度に数着だけ購入し、足りない分は、出来るだけ早くアテネ市街に買物へ行かなければいけないだろう。
その時はシュラ様、付き合ってくださるだろうか?
そんな事を思いながら、自分の身体に負担が掛からぬように、足早に帰路に着いた。


磨羯宮に帰り着くと、既にシュラ様は帰宅していた。
丁度、私がリビングに入っていったところに、シュラ様が奥の部屋から現れて、バッタリと鉢合わせする。
シュラ様も帰って来たばかりだったのか、ハーフパンツに上半身は裸という格好で、ポロシャツを頭から被るように身に着けながら、こちらへと歩み寄ってきた。


「市場へ行っていたのか、アンヌ?」
「……あ。は、はい。」
「どうした、ぼんやりして?」
「いえ、何でもないです。」


本当に何がある訳でもなかったので、私はクルリと背を向けて、キッチンへ向かおうと足を進めた。
だが、それは背後から伸びてきたシュラ様の逞しい両腕によって阻まれてしまった。
そのままグッと引き寄せられ、彼の胸の中に閉じ込められてしまう。
驚く私を、そのまま後ろから羽交い絞めにし、シュラ様は私の髪に自分の顔を埋めた。


「シャツ、着ない方が良かったか?」
「……え?」
「俺の身体に見惚れてたのだろう?」
「ち、違いますっ! そうじゃなくて……、んっ。」


相変わらず、私に反論の隙を与えない人だ。
背後の彼を見上げようと首を回した瞬間、私の顎を指先で押さえ込んで。
そのまま熱い唇で、私の唇を塞いでしまう。


――バサバサッ!


抵抗する気はないが、流石に体勢が悪いせいで徐々に苦しくなってくる。
だが、一向に離してくれる気配のないシュラ様の濃厚過ぎる口付けによって、呼吸も意識も薄れていった私は、手にしていた荷物を床に取り落とした事にも気付かないでいた。





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