「ならば、今日の修練は早めに終わらせて、戻ってこよう。料理もせねばならんしな。」
「あ、でも、ある程度の下ごしらえなら、私がやっておきます。」
「いや、良い。どちらにしても、今日は早めに出るから、その分、早く帰ってくる。」
「え?」


思わず振り返りそうになったが、今は危険だと途中で気付き、慌てて首を元に戻した。
今、振り返っては駄目よ。
背後のシュラ様は、下着一枚だけしか身に着けてないんだから!


「今日は候補生達を連れて、少し遠くの海岸まで行く事になっている。足場の悪い岩場や砂浜、水辺、海上での戦闘、色々な状況を想定しての修練も必要だからな。」
「そのような訓練もされているんですね。知りませんでした。」


聖域の広い敷地、アテナ様の結界内にも、川や岩場、崖など、厳しい訓練にうってつけな場所は幾つもある。
だから、わざわざ海の方まで足を運んでの指導をしているだなんて、聞いた事がなかった。


「皆、面倒臭がってやりたがらないからな。聖闘士候補生と言っても、まだまだ子供だ。手の掛かるガキ共を連れて外の世界へ出ようなどと、考えたくもないのだろう。」
「シュラ様は、面倒ではないのですか?」
「面倒に変わりはない。だが、アイツ等には必要な修練だ。」
「だから、シュラ様が、その役をかって出る、と?」
「まぁ、俺が一番適しているから、というのもあるがな。」


黄金聖闘士の中でも、自分が一番身が軽く、誰よりも俊敏な動きが出来る、そういう意味だろう。
それは自身の持つ技の性質上、そうでなければいけないからというのも勿論あるが、こうして毎日、絶え間なく積み重ねてきたトレーニングの賜物でもある。
他の誰よりも良い見本・手本になれる、そう自負しているからこそ、こういう役回りを積極的に引き受けるのだ、シュラ様は。


「早く出られるのなら、急いで朝食の準備をしますね。シュラ様も、早くシャワーを浴びてきてください。」
「そうする。……あ、そうだ、アンヌ。」
「はい、何でしょうか?」
「今日もアイオリアは来るのか?」
「そうかと思いますけれど……。」


昨日、洗濯した彼の服も、まだ預かったまま返していない。
それに、お貸ししたシュラ様の服も返してもらわなければならないし。
多分、執務の前か、執務が終わってからか、そのどちらかくらいには顔を出すだろう。


「あまり期待を持たせるな。」
「っ?!」


いきなり何を言い出すのだろう。
振り返ってしまいそうになる身体をギュッと堪えた反動か、肩がビクリと震えた。
そんな私の頭にポンと手を置くシュラ様だが、声は変わらず淡々としている。


「アンヌにその気がないのなら、早い内にハッキリしてやれ。」
「ど、どうして……。」
「長引けば長引く程、辛くなる。アイツがな。」


ハッと息を呑んだ瞬間、頭の上にあった手が離れていった。
そして、私が振り返った時には、もうシュラ様の姿はなく、廊下の向こうにドカドカといつもの乱暴な足音だけが響いていた。





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