でもでも、いつまでも落ち込んでいては駄目よね!
ネガティブな状態でシュラ様の傍にいて、もっともっと嫌われるのは嫌だもの。


「よし!」


お詫びと言うと大袈裟だけど、シュラ様に居心地良く過ごして貰いたいという気持ちは変わらないから。
私はリビングの入口近くに備え付けられていた全身が映る鏡の前に、椅子を運んだ。
そこにドライヤー片手で待ち構える私。
シャワーを浴び終え、戻って来たシュラ様は、そんな私の姿を見て、ポカンと目を丸くしていた。


「や、シュラ様っ! またっ!」


どうしてこの人は、バスタオル一枚だったり、下着一枚だったり、そんな危険な姿でうろつき回っているのでしょうか?
兎に角、目のやり場に困る。
激しく抗議します、「ズボンを履いてください!」と。


「また、そのように下着一枚で歩き回って!」
「履いたら暑い。」
「なら、せめて、その頭から掛けているバスタオルを腰に巻いてくださいませんか?」


その方が、まだマシです。
それならば危険な部分の、その、危険な感じが目に入りませんから……。


「で、これは何だ?」


渋々、バスタオルを腰に巻いたシュラ様が、そこに置かれた椅子と、ドライヤーを手にした私とを交互に眺めやる。
そんな彼に向かって、私はニッコリと微笑むと、半ば強引に手を引いて、椅子へと座らせた。


「髪の毛、乾かしますね。」
「別にそのような事をせずとも、この気温だ。直ぐに乾く。それにドライヤーは暑い。」
「そのような事を仰らずに、試してみてください。意外に気持ち良いですよ。こうして乾かして貰うのは。」


そう言って、有無を言わせずドライヤーのスイッチを入れる私。
ゴーッという大きな音と共に吹き付けるドライヤーの熱い風が、シュラ様の黒い髪を激しく揺らし、私はその温風に合わせて、濡れた髪に手を滑らせた。
上向きに逆立った見た目とは裏腹に、とても柔らかい感触の髪は、フワフワでサラサラで、触れている私も気持ちが良い。


一方、乾かして貰っているシュラ様も、逆らう事なく黙ってされるままになっていた。
その切れ長の目を更に細めて、心地良さそうな表情の彼は、今にも眠ってしまいそう。
腕を組んで椅子にドカリと腰掛け、背はピンと伸ばしてはいるが、頭が次第にカクカクと揺れ動き始めている。


こうして見ていると、シュラ様はまるで猫のようだ。
俊敏で引き締まった身体、鋭い瞳、その身に纏う厳しいまでの緊張感。
普段は人を寄せ付けない雰囲気で、厳しい姿勢を崩さないのに、心を許した相手にだけは甘える素振りを見せる猫。


あれ?
という事は、シュラ様は私に心を許していると、そういう事になるのかしら?


思わず、姿見に映ったシュラ様の顔をジッと見つめた。
寝てしまったのかしらと思う程、気持ち良さそうな顔をして目を閉じたシュラ様。
巨蟹宮にいた頃は、いつもキリリと凛々しいシュラ様の表情しか見た事がなかった。
でも、今は、このように気を抜いた柔らかな表情を間近で眺める事が出来る。
寧ろ、そんな『普段の彼』に惹かれたのだと、改めて気付いた瞬間だった。





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