炒め物をする熱気で、モワッと蒸し熱いキッチンの中。
額から零れる汗を手の甲で無造作に拭い、根気良く炒めた具材を蒸し焼きにしているシュラ様の姿。


……格好良い、かも。


厳しい眼差しで後輩を指南する姿も。
キリッとした表情で真面目に執務に取り組む姿も。
一人、黙々とトレーニングに励む姿も。
黄金聖衣を身に纏い颯爽とマントを翻す凛々しい姿も。
シュラ様なら、そのどれもが格好良いのだけれど。
真剣に料理をする姿は、また違った魅力を感じると言うか、思わず見惚れてしまう程に素敵だ。


料理をする男の人が、とても格好良く見えるのはどうしてだろう。
あの癖男っぷりを崩さないデスマスク様ですら、キッチンに立つと物凄く格好良い男性に豹変するし。
あ、いや、デスマスク様自身は何ら変わらないけど、私の目がそういう風に捉えてしまうだけなのかもしれない。
私って、料理をする男の人が好みなんだろうか。
別れて六年近く経つ前の恋人も、教皇宮の調理場に勤めるコックだったし。


いやいや。
これ以上、シュラ様に惚れてどうするのよ、私。
今さっき、女官として彼の傍にいると決めたばかりなのに、シュラ様の格好良さを目の当たりにして、もう心が揺らいでいるなんて……。


「出来たぞ。何をボケッとしている、アンヌ?」
「わっ?! す、すみません! シュラ様の手際の良さに、つい目を奪われてしまって……。」


大皿にボンと乗せられたトルティージャを差し出され、慌ててそれを受け取る。
温かいお皿の上から漂う食欲をそそる良い香りに、自分の意思を無視して、お腹が『グー』と鳴った。
そう言えば、昨日の夜は野菜スープをちょっと頂いただけで、まともな食事は昨日の朝から摂っていない。
そりゃあ、お腹も鳴るわよね、空っぽなんだもの。
でも、やはり女の子として、お腹が鳴ったのは恥ずかしい。
顔が熱くなっていく。


「アンヌの腹が鳴る程度には、美味く出来たという事だな。言っただろう? 料理くらい出来ると。」
「は、はぁ……。」
「これでもアンヌが来てくれる前までは、自分の食事は自分で作っていたからな。まぁ、女官も従者も雇ってなかったのだから仕方ないが。」


私、シュラ様の食生活はてっきりその辺りに転がっている乾燥したパンでも齧り、生卵を飲んでいるだけなのかと思っていた。
ちゃんと、ご自分で料理をされていたとは。
目の当たりにして、やっと納得です。


「お料理、お上手だったのですね。」
「料理は嫌いではない。と言っても、週に二日くらいしかしてなかったが……。」


という事は、週に五日は生卵と乾燥パンで過ごしていたと。
良くそんな食生活で、聖闘士として務めてこられたものです。
体力や筋力を付けるためにも、食事はとても重要なのに。


「他に生野菜とかも齧ってたぞ。胡瓜とか人参とかセロリとか。流石に卵とパンだけでは飽きる。」


どこの原始人ですか、シュラ様……。
もう呆れて言葉も出ません、私。





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