4.病後



容量いっぱいに洗濯物が詰まった洗濯機のスイッチを押すと、私はキッチンへと急いだ。
女官としてシュラ様の傍にいると決めたのだから、ぼんやりとしている訳にはいかない。
もう大丈夫だと言ったからには、いつも通りしっかりと働かなきゃ。
それこそ、またシュラ様に余計な気を遣わせてしまう事になる。


彼がシャワーを出て着替えを済ませて戻ってくるまでの間に、朝食の準備をしておかなければと、私はキッチンの中をバタバタと動き回った。
なるべく簡単に作れるもの、有り合わせに手を加えて、後はサラダと卵を焼けば良いかしら。
機嫌を損ねたお詫びではないけれど、今日はスペイン風のオムレツにしよう……、かな。


ジャガイモと玉ねぎの薄切り完了。
あ、この前、デスマスク様から頂いた生ハムがあるから、ベーコンじゃなくてこれを使って、ちょっとだけ贅沢なオムレツに――。


「何をしている?」
「ひゃっ?! し、シュラ様っ?!」


い、いつの間に背後に立っていたのですか、シュラ様?!
吃驚した!
吃驚した!!
全然、気が付かなかったわ、足音聞こえなかったし!


「寝てろとは言わんが、そんなに直ぐ働ける程、体力が戻ってないだろう?」
「あ、でも、もう後は卵を焼くだけですし……。」
「トルティージャ、か。」


流石にスペイン人のシュラ様だ。
用意された材料を見て、スパニッシュオムレツだと分かったのだろう。
薄くスライスされたジャガイモを摘み、サッとキッチンの上に目を走らせる。


「後は俺が作ろう。」
「え?」
「もう粗方、出来上がってるようだし、後はこれだけなのだろう? 俺が焼くから、少し休めば良い。」
「で、でも……。」


お気持ちはありがたいのですが、シュラ様、料理出来るのですか?
こちらに移って来た時に「料理はする。」と仰っていたけれど、この二ヵ月半の間に、実際に料理をしている姿を見た事がないので、正直、不安だ。
本当に、ちゃんと食べられる物を作れるのでしょうか?


「卵くらい俺にも焼ける。ましてやトルティージャだ。問題ない。」
「は、はぁ……。」


そう言って私の身体を押し退けると、シュラ様はジャガイモと玉ねぎをフライパンに放り込み、具材を炒め始めた。
その手付きは危険などころか、とても手馴れた様子で、手際も良い。
嘘偽りなく、ちゃんと料理が出来るんだ、シュラ様。
私はただ、その横に突っ立って、テキパキと作られていくオムレツと、それを作るシュラ様の姿をぼんやり眺めていた。





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