3.看病



あれから何時間経ったのだろうか?
先程よりは幾分かは良くなったような気がするが、まだ熱が高いのか、なかなか瞼を開けられない。
身体が重く、ベッドの内側のスプリングの中まで身体が沈み込んでいる、そんな感覚がする。
苦労して重い瞼を押し上げると、ぼやけた視界には十二宮独特の石造りの天井が映った。


「あ、れ……?」


目に映る天井は似ているけれども、自分の部屋のものではない。
だって、私の部屋の天井は、こんなに広くないもの。
ココは何処なのだろうか?
まだ高い熱のせいか、思考がさっぱり働かない。
自分は今、何処にいるのだろうと思いはすれど、その場所を推測しようとする気力が湧かなくて、そのまま、ただぼんやりと天井を眺めていた。


「目が覚めたか、アンヌ。」


パタンとドアが開く音に続いて、響いてきたのは聞き慣れた静かな声。
耳に心地良い低く落ち着いた声は、私が心から慕う『彼』の声で間違いなかった。


「シュラ……、さ、ま……。」
「まだ熱が高いようだな。無理はするな。」


声が聞こえてきた方に視線を動かして初めて、天井以外の部屋の様子が視界に入る。
見慣れた色調と家具の配置、今朝も私が綺麗にお掃除をしたばかりの部屋。
ココは……、シュラ様のお部屋だ。


「どうして……、私、ココに……。」
「あぁ、デスマスクが連れ帰った時、アンヌの部屋に運ぼうとしたらしいのだがな。鍵が掛かっていて入れなかったそうだ。」


それでシュラ様の部屋に……。
黄金聖闘士であるならドアを壊して簡単に入る事も可能だが、ココはデスマスク様にとっては人の宮。
勝手にドアを壊して、後でシュラ様に何か言われるのも嫌だったらしく、だからといってソファーではゆっくり休めないだろうと、仕方なくシュラ様のベッドに運んだのだそうだ。


「俺が戻って来た時に、アンヌの部屋に運ぼうかとも思ったんだが、良く眠っていたからな。」


それで目が覚めてしまっては可哀想だろう。
そう言って、シュラ様はスッと手を伸ばし、私の額に触れた。
ヒヤリと冷たい手の感触、手を洗った直後なのだろうか。


その手が離れると、私は視線を窓の方へと向けた。
外は既に真っ暗な闇に包まれていた。
六月の中旬を過ぎた、この時期は、一年で一番、陽が長い。
それがもうこんなに暗いという事は、私はとても長い時間をココで眠り続けていた事になる。
その間、ずっとシュラ様のベッドを占拠していただなんて、幾ら病人とはいえ女官としては有り得ない事態だ。


「シュラ様……、ポケットの中に鍵……、ありますから……。」


シュラ様に自分の部屋まで運んでもらうなんて恐れ多い気もするが、身体が思うように動かない今は、自分で部屋まで歩いていくのは困難だった。
それに、このまま、このベッドを占拠し続ける方が、ずっと恐れ多いというもの。
申し訳ないけれど、今はシュラ様に連れて行って貰うしか方法がない。


「無理はするなと言った筈だ。」


起き上がり掛けた私の身体を、そっと押し返すシュラ様。
軽く肩を押されただけだというのに、私の身体は再び、ポスンという音と共に、力なくシュラ様のベッドへと沈んだ。





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