「シュ、シュラっ!」
「ん? 何だ?」
「だ、誰か見てたら――。」


困るし恥ずかしい。
そう伝えようとした言葉は、途中で途切れてしまった。
手の甲に押し付けられていたシュラの唇が、そのまま手の平の方へと移り、更には指を口に含んでしまったから。
チュッという、ある種現実的な音が響いた途端、私の顔は首筋まで全部が真っ赤に染まった。


「やっ、ちょっと! そういう事は、もっと別な場所で……。」
「構わん、誰も見てはいない。」


そういうところは、凄く自己中よね。
実際、こんな状況をデスマスク様にでも見られた日には、何を言われるか分からないのに。
言われたら言われたで、いつも忌々しそうに苦い顔をするクセに。


「もうっ! ふざけてないで、手を離して。」
「今日の彩香は、随分とご機嫌斜めだな。」
「そうさせたのは、何処の誰?」


そうだ、私はまだ彼がどうしてここで待っていたのか、その理由を聞かせて貰っていない。
明日が私の誕生日なのだから、一緒に過ごすのは明日の夜。
今日は何のために、待ちぼうけまでして私を待っていたの?


「だから、言っただろ? 彩香の誕生日を一緒に過ごすために。」
「でも、誕生日は明日よ。シュラも知ってるじゃない。」
「明日になってからじゃ遅い。零時を回れば、その時から彩香の誕生日だ。一分一秒も逃さず一緒に過ごすには、今日の夜から共に居なければ。」


そして、スッと屈んだシュラは、耳元にそっと囁く。
「明日は一日中離さない。」だなんて、そんな言葉を告げられては、当たり前にクラリと目眩を覚えてしまう。


「十秒前から数えるか?」
「カウントダウンをするって事?」
「あぁ。勿論、ベッドの上でな。」


上から降り注ぐ視線は、先程の手の熱さとは比にならない。
目眩どころの騒ぎじゃ治まらないかも。
気を失って倒れそうだわ、シュラの色気が原因で。
私は明後日の朝、人の形を保っているかしら?
シュラの身体中から発散される熱に当てられ、溶けてなくなっているんじゃないだろうか?


「そうだな……。一つに重なり合いながら迎える誕生日というのも、悪くないだろ?」
「っ?!」


まさに止めの一言。
明後日の朝どころか、今この時からもう蕩けてドロドロになってしまいそう。
先程から赤く染まりっ放しの顔は、もう元の肌の色には戻らないんじゃないかと、そんな気すらした。



カウントダウンは熱い吐息で



「帰るぞ、彩香。」
「う、うん……。」


差し出された手を取ると、次の瞬間には強い力で引き寄せられて、気付けばシュラの腕の中。
瞬きの間よりも早く、私は彼に抱き上げられていた。


「え、や……。な、何?」
「雨降りだからな。濡れないように走るから、しっかり掴まっていろ。」


至近距離から降ってくる視線は、先程にも増して熱っぽくて。
このままじゃ、磨羯宮どころか、そのままベッドの上まで連れて行かれるんじゃないかしら。
そんな確信に近い予感がした。



‐end‐





仲良しの志摩さん宅二十万打記念と、一ヵ月後に迎える四周年記念を兼ねまして、フェロモン垂れ流し山羊さんを、お贈りしてみました。
リクは「お誕生日を祝ってくれる山羊さん」だったんですけど、その前段階になってますね、この夢;
ちなみに上の話の流れだと、誕生日は一日いっぱいベッドに釘付けでしょう、流石にERO山羊さんです(笑)

2009.09.13



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