日食なんて、最後に見たのはいつだっただろう?
確か小学生の時、学校の屋上で見た記憶がある。
あれが最後で、それから一度も見た覚えがない。
そうだわ。
あの時も、その不思議な光景に言葉も忘れて、ただジッと見ていた。
日食が終わるまで、ずっと。


ふと、綾は視線を太陽から落とした。
バルコニーから見下ろせる庭に、同じように空を見上げる人達が何人もいるのが視界に映った。
あ、沙織お嬢様だわ。
もう既にきっちりと洋服に着替え、空が一番広く見える場所に陣取って、空を見上げている。
その横に控える辰巳さんも、大きな声を上げて空を見上げていた。


――皆、この日食を楽しみにしていたのね。


視線を戻すと、横のシュラがチラと綾に視線を向けた。
目が合うと、全く同じタイミングでニッコリと微笑み合い、二人同時に空に視線を戻した。
繋いだ手を、先程よりも強く握り締め合って。


「見ろ、綾。あと少しだ。」
「ホント、凄い! 太陽が三日月みたいになってきたわ。」


初めは月が太陽を侵食しているように思えたのに、その姿の殆どが隠れてしまった今、逆に太陽が月を飲み込んでいっているように見えてくる不思議。
あと少し、あと僅かにズレると、その全てが太陽に飲み込まれてしまう。


「あっ!」
「綾……、見てるか?」
「うん、見てるわ、シュラ。とっても素敵……。」


空に浮かぶ眩いリング。
ホンの僅かの時間だけ輝く、誰の目にも見えて、でも、誰の手にも届かないリング。
見た人の心をときめかせ、ざわめかせ、感動させて魅了する。
遥か天空で揺れる至高の輝き。


「綺麗、ね……。」
「あぁ。」
「鳥肌が立ったわ。見れて良かった。」
「どうしても、これをお前と一緒に見たかったんだ。」


だから、可哀想だと思いつつも無理に起こしてしまった。
少しだけ声のトーンを落としてそう言うと、シュラは繋いでいた手に、もう一方の手も重ねて、綾の華奢な手を両手で包み込んだ。


「今頃、プロポーズをしている男が沢山いるだろうな。」
「シュラは? しないの、プロポーズ?」
「したい気は満々なんだが、相手がイエスと言ってくれそうにない。」
「まぁ、酷い人ね。貴方をヤキモキさせるなんて。」


クスッと小さく笑ってから肩を竦め、綾は包み込まれている手に、もう片方の手を重ねた。
本当は分かっている。
プロポーズの言葉なんて必要ない。
こうして傍にいられれば、それで。
ずっと寄り添っていられるなら、それで良い。


綾は一番上に重ねていた手で、シュラの左薬指に光る銀の指輪をそっと撫でた。
それはクリスマスの時に、二人揃いで買った初めての指輪。
勿論、綾の左薬指にも同じものが光っている。
その指輪と、今、共に見た空のリング、それはきっと心の中で同じ輝きを持つもの。
シュラと綾、二人にとって、永遠に続く想いの証になるのだろう。



空のリングの下で、永遠の愛を誓う



「綾、後で一緒に出掛けよう。」
「何処か行きたいところでもあるの?」
「新しい指輪を買いにな。今日の記念に……。」


肩を引き寄せる力に逆らわず、そっと唇を重ねる。
徐々に終わりゆく日食の薄暗い光の下で、誓いのキスにも似た長い口付けを交わして。
二人の一日が、こうして始まりを告げた。



‐end‐





2012年の5月21日は金環日食!
という事で、今週中に書けて良かった、山羊さまー!
と言っても、北はど真っ晴れなのに、金環にはならなかったんですけど(悲)
でも、三日月みたいな太陽が、とても神秘的でした。
山羊さまにプロポーズしてもらっても良かったんですが、そうなると、このシリーズが終わってしまうので(苦笑)、あえてしない方向で仕上げちゃいました。
プロポーズまでも寸止めでスミマセン(滝汗)
てか、このメイド夢主さんでEROくないのって久し振りw

2012.05.24



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