だが、今朝のシュラは、その優しさを何処かに捨ててしまったかのようだった。
時間に追われ焦っている様子で、早く綾の意識を夢から現実に戻そうとしている。
休みである筈なのに、どうしても起きなければならない理由は一体、何なのか。
シュラによる強制的なストレッチを受けながら、綾はぼんやりと考えていた。


「どうだ? 目が覚めたか?」
「うん、一応。でも、どうしたの? 今朝のシュラ、ちょっと変。」
「すまんな。俺としても、もうちょっと寝かせてやりたかったのだが。」


だったら、無理に起こさないで、そのまま寝かせておいてくれれば良いのに。
それが駄目なら、せめて昨日の夜は何もせずに休ませて欲しかった。
そう言いた気に溜息を吐く綾の不機嫌な顔を見て、シュラは苦い笑みを、その端整な顔に浮かべた。
それでも譲れない何かがあるのだろう。
それ以上は何も言わず、シュラは綾の手を引いて、小さなバルコニーへと連れ出した。


「あの、シュラ……。私、バスローブ姿なんだけど……。」
「大丈夫だ、俺以外は誰も見ていない。それに、もう着替えている時間がない。ほら、これを掛けて。」
「??」


部屋へと戻りたがっている綾を引き留め、あらかじめ用意してあった椅子に座らせると、シュラは紙で出来た眼鏡のようなものを差し出してきた。
一体、これで何をするというのだろう?
意味が分からず、ただジッとシュラの顔を見つめる綾。
そんな彼女に向かってシュラはフッと軽い笑みを零し、それから自分の手にあった眼鏡を装着した。


「こうして太陽を見るんだ。あぁ、間に合った。丁度、始まったところだぞ。」
「太陽? これで太陽を見るの?」
「そうだ。早く綾。ほら。」
「わ、太陽が欠けてる? 今日って、もしかして日食だったの?」


その問いには答えず、シュラは空を見上げたまま綾の手をギュッと握った。
シュラはこれを見せるために、あんなに無理矢理に起こそうとしたのね。
いつもクールで素っ気無くて、それでいて夜は情熱的で、そんな大人の色気ばかりが目立つ彼だけど、今朝はまるで子供みたいだ。
紙製の怪しげな眼鏡を掛け、口を開けて空を見上げているシュラを見ていると、綾は込み上げてくる笑いを堪えられずに、口元を大きく歪ませた。


「しかも、ただの日食ではない。今日は金環日食だ。」
「金環日食って?」
「見ていれば分かるさ。」


ジワリジワリと月に侵食されて、その形を細めていく真っ黒な太陽。
その不思議な光景は、とても神秘的で、目が離せなくなる。
息をするのも忘れてしまいそうだ。





- 2/3 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -