スローナイト



彼は優しい。
その、いつも厳しい表情と、鋭い眼差しから、『冷たくて怖い人』とか、『近付き難い人』だと誤解を受けがちだけれども。
聖闘士として任務に就いている時は兎も角、普段は私が戸惑う程に、優しく優しく触れてくる。


まずは、まるで骨董品の陶器にでも触るかのように、そっと頬に触れ、包み込む。
この人は、私の頬が壊れものか何かと勘違いしてるのかしら?
そう思ってしまうくらいに、触れるか触れないか。
それくらいの感覚で、ゆっくりと撫で擦っては、焦らしているのか、なかなか本気で触れてこない。
でも、その微かな感触が、巧妙に私の官能を、内側の深い場所から引き出していくの。
そして、私は耐え難い焦燥の中で、彼の仕掛ける甘い誘惑に堕ちていく。


愛の営みは、時間を掛けてゆっくりと。
そうして焦らしに焦らされた私の身体を、じっくりじっくり味わっていくシュラ。
彼は決して焦ったりしない。
私の感じる箇所を一つ一つ確かめながら、少しずつ深まっていく愛撫に、私はいつも気付かぬ内に、溺れてしまっている。 
その徐々に昇っていく快感が堪らなく気持ちが良いのだと、シュラは知っているのだ。


深く深く一つになって、甘やかな時をじっくりと。
緩慢でいながら巧みな動作で、目眩にも似た愛の営みを盛り上げていく。
長く尾を引き続いていく歓喜、終わりなき夜に私の内側を満たし続けるシュラの熱。


そう、愛を確かめ合う行為により切なげに歪んだ彼の表情が、言葉よりも雄弁に教えてくれる。
そうして紡がれる長くも深い悦楽が、シュラにとっても最高の時間なのだと。
後に残る快楽の余韻が、何処までも消えずに体内に留まる感覚は、とてもとても心地良くて。
全てが果てた後に、こうして寄り添い合い、ゆったりと語り合うのも、また心地良いもの。


「激しいばかりが、愛じゃないだろ。」
「どの口が、平然とそんな事を言えるのかしら……。」


零れたのは、呆れと同意の呟き。
今でこそ、こんなにも優しく愛を示してくれるシュラだが、付き合い始めた当初は、それはそれは激しい夜が連日、続いていたのだ。
あれは、心の内に秘めた欲望に火が点いて、燃え上がって止まらずに。
自分でも、どうしようもないといった風だった。


それも、こうして共に磨羯宮に住み、二人で同じ夜を越えるようになって、やっと変わったの。
同じ時間を共有出来るようなり、そのせいか激しさは徐々に治まって。
こうしてゆったりとした愛を育めるようになったのは、つい最近の事。
時間を掛けてゆっくりと交わす濃厚な愛の行為に今は落ち着いて、私達は細波のような歓喜に溺れては、それを二人で楽しんでいる。





- 1/2 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -