六月、鑑賞会にて。


 あの子と出会ったのは6月の芸術鑑賞会の日だった。

 年に2回くらいあるめんどくさい学校行事で、その日はなんとかかんとか楽団とかいう、どっかのオーケストラの演奏聞くことになってた。

 興味なんて皆無だってのに、課外授業だから出欠確認もかねて劇場のパンフと感想文を提出するように言われて、本当に迷惑な話。

 席は一応決まってたんだけど……ほら、この日にあわせて色んな学校がおんなじような行事組むからさ、学校ごとに大体の席を決めてたんだわ。

 つってもあたしは開始ギリギリに行ったから、どのあたりが自分たちの席だかわかんなくて、とりあえず後ろの方の列で、一番端の空いてる席に座った。

 どーせあとで感想文提出して出欠確認するんだから、どこにいたっていいでしょ。

 ホールの椅子は適度に軟らかく、座り心地がよくて、始まる前からうとうとしちゃう。

 だけどあたしの一段上の席で、どっかの女子校の女どもがぴーちくぱーちく喋り通し。うるさくって寝るどころじゃない。

 眠いのに眠れないと人は不機嫌になるもんだ。

 イライラしながら、足を組み直したら、

「足どかしてくれない」

 腰に手をあてて仁王立ちするギャルが一人、あたしを見下ろして、迷惑そうな顔してた。

「あー、ごめんね」

 ギャルは無言で通り過ぎた……と思ったら、あたしの隣に腰かけた。

 なんだよ。このギャル隣の席なのかよ。

 ちらりと横目で盗み見る。

 金髪にピンクのメッシュ。美人だけど、派手で見るからに性格キツそうな顔してた。

「ちょっと」

 一瞬あたしに言ったのかと思った。

「あんたらさっきからうるさいんだけど。もう始まるんだから静かにしなよ」

 後ろを向いて、一段上の女どもに注意した。

 あたしが見てるのに気付くと、文句あるかと言わんばかりに、

「なに」

「別に」

 派手でケバくてきっついヤンキーみたいなギャル。

 こーゆー女とは友達になりたくないね。

「ご来場の皆様。本日は――」

 舞台の袖の方にスポットライトが当てられ、スーツ姿の女の人が挨拶をはじめた。

 あー、めんどくさい。

 椅子にもたれ掛かり、息をつくと、すぐに睡魔がやってきた。



 どれくらい時間がたったか。

「重いんだけど」

 頭をグイっと押されて、我に返った。

 隣の席のギャルがあたしを睨みつけてる。

「あ? なに?」

「なにじゃない。あんたの頭があたしの肩にのっかってて重いっつったの」

 げっ。よりによってこんな女の肩にもたれかかるなんて。しくじった。

「あーそういうこと。それは失礼しましたね」

 謝ってんのに横目で睨んできて、まだ何か言う気なのかよ。

「あんたさ、始まる前から寝てたけど、それはさすがに失礼なんじゃないの?」

 かちーん、ときた。

「はあ? なに、あんたの知り合いがあの楽団の中にでもいるわけ?」

「そういう問題じゃない。興味ないのはわかるけど、始まる前の拍手くらいはするべきじゃないのって思って」

「べっつに、よくね? あたしが拍手しようがしまいが関係ないじゃん」

「関係ないよ。アタシならそうして欲しいって思っただけだよ。まあ、あんたみたいな自分よければいいみたいな人間に見て欲しいとも思わないけど」

 ぶちっ、ときた。
 思わず右拳を握りしめる。

「樹里ー! そんなとこにいたの? ジュース買いに行くけど、行くー?」

 タイミング良く、同じクラスの瑠衣が声をかけてくれた。

「行く」

 隣のギャルのことは見ないようにして、通路の階段を下りていった。

 あのまま続けてたら、あたし、あの女のこと殴ってたかもな……そう思ったら途端に怖くなったり。

 自分のことだけど、短気って本当に嫌だ。






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