「まあまあ、お暑い中ようこそお越しくださいました。どうぞ御上がりください」 旅館の女将よろしく、お姉は客人を居間に連れてきた。 お姉の後に入ってきたやたら背の高い男。 あたしより高いな……でも2メートル越えはしてないか。 目が合うと、涼やかな笑みを浮かべて、 「こんにちは。お邪魔します」 と言った。 お姉に座布団をすすめられ、軽く頭を下げて、受けとる。 別にいいのに正座なんてしなくて。 「お兄さん、足長いんだから正座なんてしたら窮屈じゃないすか?」 彰さんとやらは、「おや」って顔をして、でもすぐに、 「そうだね。じゃあ伸ばさせてもらうね」 「どうぞどうぞ。今、お茶を持ってきますから、くつろいでてください」 「お構い無く」 「樹里、手伝って」 台所に入るなり、お姉は盛大なため息をついた。 「どっちのため息」 「想像以上に素敵な方だったものだから」 「そっちね」 「こっちよ、もちろん」 「よかったじゃん」 六人分のグラスをおぼんにのせて。 聞かなかったけど、麦茶でいいよな。 「樹里はどう思う?」 「65点」 「低すぎじゃない?」 「その前に点数をつけないの、とか咎めないの?」 「いいわ。今回は特別」 いいのかよ。特別の意味がわからん。 「背は高いし、顔もいいし、体つきもなかなかにいいけど、あたしの理想からは程遠い」 あたしの理想の男性像。 身長2メートル超え、体重100キロ超えの穏やかな性格のゴリマッチョ。 「樹里は理想が高すぎるのよ」 「顔がよければいいってのよりはマシだと思うけど」 「それ、私のこと言ってるの? そうだとしたら間違えよ。私は顔だけで人を判断したりしません。彰さんは物腰穏やかで、礼儀正しくて、とても紳士的なお方よ。笑顔も素敵だし」 「対面してから何分もたってないのによくそんな自信たっぷりに言えるね」 外面に騙されちゃって。 あんなあからさまに胡散臭いヤツいないっての。 「そう。樹里が彰さんを快く思ってないのはよーくわかったわ」 「別にそうは言ってないけど」 言ってないけど、思ってるのは事実。 初兄からあんな話聞かなきゃ、また違ったんだろうけど。 「あなたがどう思おうが構わないけど、お客様の前であからさまに嫌な顔はしないのよ」 「わかってるよ」 あたし、そこまでガキじゃない。 「あと、あなたは仏頂面してるよりも笑ってる方が可愛いわよ」 「伊吹には気持ち悪いって言われたよ」 お姉は何も言わなかった。 |