【3つの恋のお題】KAITO×リン


電車を降りると外は土砂降りの大雨だった。

濡れた足元に注意を促すアナウンスを聞きながらホームを歩いていると、携帯電話がメールの着信を知らせて振動する。
差出人は最近出来た中学生の妹だった。親の再婚相手の連れ子で、昔から弟か妹が欲しかったから、思いがけず一度に両方叶って驚きながらも喜んだのを覚えている。二人が同じ顔だった事も思いもよらなかったけれど。
メールを開くと、駅の改札口で待っていて、と用件しか書かれていない素っ気ない文章。何か怒ってるのかなとか嫌われているのかもなんて狼狽えたのは知り合った最初だけで、今ではこんな短文にすら、照れ隠しにちょっと怒ったような口調になる声が聴こえた気がした。
──濡れてないといいけど。
擦れ違う他人の髪や肩を一瞥しながら、意外に生真面目で不器用な義妹を思った。


君の声が聴こえた気がした。

見逃したかと慌てて首を巡らせると改札の向こう側で探していた人が手を振っていた。
こんな所でどうしたのと、相手が言い終わる前に持ってきた傘を差し出すと義兄はありがとうと笑って受け取った。
助かったけど、暗くなってから一人で出歩くのは危ないから駄目だよなんて説教くさいことを言い始めた元他人に、子供扱いしないでと口癖になってる文句を返そうとしたのだけれど。
女の子なんだから、なんて。そんなことをそんな顔で言うのはずるいと思う。
平気だもん。何とかそれだけ言い返して、顔を見られないように先に歩き出したのに、駅から出る頃にはあっさり追い抜かれていた身長差が憎い。
半歩前を歩く青い傘の下、ゆらゆら揺れる手は男の人らしく、見慣れた双子の弟とはちょっと違う。
ばうん、と傘を持つ腕に跳ね返るような衝撃がして、伸ばした指先は空気を掠めて。雨が降って傘を差しているのだから無遠慮に近づけばぶつかるのは当然だったのに。
びっくりした顔で振り返った彼の目は伸ばしたまま固まっていた手に注がれた。今更引っ込めても遅いけどこれ以上晒してもおけない。
真面目だからねぇ、と呟いたその人は傘を閉じて、笑って目の前に飛び込んできた。

「やっぱり、こっちの方が話しやすいね」

傘の柄を握る手の上から握られた大きな手と、耳元に近い声にくらくらしながら、さっきから何か喋っていたらしい年上の人に全然聞いていなかったことを伝えたら、酷いよとちょっと本気で嘆かれた。


------------------
カイリンへの3つの恋のお題:

君の声が聴こえた気がした
伸ばした指先は空気を掠めて
駅の改札口で待っていて
( ⇒ http://shindanmaker.com/125562

手を繋げないような関係で駅の改札で待ち合わせる状況ってどんななのか結局相合い傘でした。という話。


2014/11/28 ( 0 )






◆ 伝えたい言葉ふたつ5題

1.ごめんね、ありがとう
2.大キライ、また明日
3.おはよう、がんばって
4.笑って、待ってて
5.バイバイ、大好き

御題配布元 >>> 確かに恋だった


▼続きを読む
2014/11/28 ( 0 )





2. 大キライ、また明日



風呂から出たら実姉と義兄がケンカしていた。

「カイト兄のばか!大キライっ!」

訂正、リンがカイトに怒鳴ってた。
どしたの?と小声で訊くとカイトは肩を竦めて苦笑いだけ返してくる。
風呂上がりに食べるミカンの買い置きを忘れられたのか、それとも見たいドラマの録画を消されたのか、カイトの態度からして大した事じゃなさそうだ。
勿論そんな事は口に出さないし、リンの口撃に巻き込まれないように、極力存在感を消す事に徹する。
冷蔵庫の前で風呂上がりの一杯(バナナ味)を呷っていると、もうカイト兄なんて知らない!と捨て台詞を吐いて、リンがリビングを出ていこうとした。

「おやすみ。また明日」

意訳すれば『この話はおしまい、頭冷やして出直して来なさい』だ。
穏やかな声でトドメを刺されたリンは、バカイト!と叫んでドアを思い切り叩きつけて閉めた。

「レンは?」
「んー」

今部屋に戻ったらリンの愚痴に付き合わされてしまう。そうしたら試験勉強なんか出来やしないし、それならまだ返事をしなくていいテレビの方がマシな気がする。

「テレビ見ながらするわー」
「ほんとに君ら、双子だね」

ああ、そういうこと。
カイトが呆れた声で言う。リンが逆ギレしてた理由がやっと解った。


-------------
「テレビ見ながら勉強できる訳ないでしょ!」「できるよ!うっさいなァ!」 的な。


2014/11/28 ( 0 )





3. おはよう、がんばって



「…おはよう」

ドアの隙間からリンが、あからさまに寝不足な顔を半分だけ出して言った。
何してんだと訊く前に、朝御飯あるよとカイトが返す。途端にリンは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「何でいるの…。いつももっと遅いのに」
「一限目あるからね」

それでも二人よりは遅く出るよと、カイトはオレンジジュースを注いでテーブルに置く。リンは黙ってジュースの前に座って、カイトが朝飯を並べるといただきますと呟いてもそもそ食べ始めた。
食わないという選択肢はないらしい。オレならケンカ中の相手の悉くを無視すると思うけど。まぁオレには関係無いし。

「行ってきまーす」
「あっ、待ってあたしもっ。行ってきます!」

リンが慌てて朝食の残りを口に押し込み鞄を掴んで走ってきた。…歯ァ磨いたか?
玄関先で、靴を履くリンを待っているとカイトが見送りに出てきた。逃げるように玄関から飛び出したリンにも聞こえるように、でも顔はオレの方を見ながら、カイトが言う。

「行ってらっしゃい。テストがんばって」
「え? ………………!!!」

バタン、とリンの顔の前で玄関が閉められる。
わかってる。寝不足なのはカイトとケンカしたのを気にしてたせいってのも、今の今まで今日が試験なのを忘れてたってことも。
でも、そんな顔で俺を睨んだってどーしようもないだろ…。


------------
歯は?


2014/11/28 ( 0 )





4. 笑って、待ってて



「カイト兄?元気ない?大丈夫?」
「うん」
「…どっち?」

大丈夫だけど元気は出ない。お酒の呪いか気力の問題か、玄関の床に吸い込まれて剥がれられない。
酒の席で、この前手を繋いで歩いてたの誰ですかと訊かれたので、妹なんだー可愛かったでしょー、と何故かガッツポーズする後輩に自慢をしていたらメイコさんに殴られた。アンタねぇ、ってひとの頭を撲っておいて隣に座って、誤解させるだけならやめなさいよ大体アンタは誰にもいい顔をしてとか正座の説教酒で絡まれた。顔を褒められたのは珍しいけど、誤解なんてどういう意味だろう。

「カイト兄見て見てっ」
「……………」
「…………せめて笑って……」
「……ああ、ごめん……」

てっきり深夜のテンションで変顔始めたのかと思った。落ち込んでる僕を浮上させようと試みた結果、駄々滑って返って彼女を落ち込ませてしまったらしい。それでも何か次の手を考えているパジャマ姿の妹の足が裸足で寒そうだった。触ったらセクハラかな?でもこの前告白られたしアリかな。うう。いい兄貴になれなくてごめんなさい。

「あっ、そっか!カイト兄、アイス食べる?」
「……もうちょっと、待っててくれる?」
「う?うん。いいよ?」

なんだ。誤解なんてないじゃん。ああよかった。お兄ちゃんかっこいいって言われる夢は諦めるしかないけど。元々他人なんだし。これで姐さんに犯罪者扱いはされないかな。そうだ、めーちゃんと言えば。

「今日ねぇー、ロリ誘拐って言わ」
「リン中学生なのに!!」

打てば響く反応に思わず大声で笑ったらひどいとか怒られてその顔すら可愛いとか重症かも知れない。


-----------
メイコ姐さんは同じ大学という設定です。


2014/11/28 ( 0 )




prev | next






戻る



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -