かすが忍んで参りますその日かすがは一人で天井裏に潜んでいた。
その男は、竜などと渾名されてはいるが決して高潔な人物ではない。暗殺すれば主の憂いを少なからず軽く出来るだろうと、独断で奥州の一城に忍び込んだ。
臥所らしい部屋からは何か話す声がしていた。
「…ん……ゎ、待っ」
No、と言う声は聞こえたがかすがには意味は分からない。くぐもった声は男のもので、室内には二人だけの様だ。
「……どうする?」
「手伝って欲しいのか?」
「…やるのはそっちでしょ…」
睦言を盗み聞きする趣味は無いが、その場に居ただけで罪も無い者を手に掛けるのも忍びない。
躊躇をした、次の瞬間にその場から身を引く。元居た場所を白刃が貫いていた。
感付かれてしまったが逆に好機だ。敵意に遠慮など無い。室には大小二本しか置かれていないはずで、小姓など物の数ではない。
室に降り、苦無に伸ばした腕を誰かに掴まれた。
「…っ」
締め上げられてびくともしない。降りて来る場所すら読まれていたらしい。
「なんで俺さまが手伝わないといけないのー」
頭の後ろから落胆した声がした。
「纏めて始末してやってもいいんだぜ」
独眼竜は笑いながら天井に刺さった刀を引き抜く。
「この人手伝った方が良かったかな…」
「……?」
聞き覚えのある声だと思って首だけで振り返ると、男は気付いたように目を剥いた。
「…げっ…」
「…貴様!此所で何をしている!?」
背後に立っていたのは甲斐にいるはずの忍びだった。
独眼竜が刀の峰を肩にかけて、見比べるような目線で問う。
「仲間か?」
「うん」
「違う!」
佐助の声を全力で否定すると後ろから溜め息が漏れた。独眼竜は笑いながら刀を構える。
「good.良い返事だ」
「ちょ、待った。あ、のさ」
何故か狼狽した佐助の手が弛み、その隙に掴まれた腕を振り切った。独眼竜の首を取れないのは口惜しいが、こんな形で命を失うなど醜態以外に無い。委細構わず庭へと飛び出し、夜の闇の中に身を潜めると独眼竜の怒声が響いた。
「何してんだ忍!」
「いや、だから、その、えーっと」
「…huh?」
「なんだ、だからさ、あのー…」
言葉を濁す佐助に、独眼竜は刀を持っていない腕を佐助の首に回して勢い良く顔を近付ける。
「違くて」
「違うのか?」
「……。…俺の借りになるのかよ…」
「of course」
笑う独眼竜に、佐助は仕方無くといったふうに後ろ手に障子を閉める。障子越しの二つの影は近付いて重なり、その内に室の明かりが消えた。
時を置かず、音も光もなくなった庭から影が一つ飛び出して、より深い夜に消えた。
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Σd-゜τ゜-bバレた!
後日談→