未来の彼がやってきた!「サンジくーん、お茶貰えるー?」
ダイニングに入るとキッチンに人の気配を感じて、ナミはカウンター越しに身を乗り出して声を掛けた。
しかしそこにいたのはコックではなく酒瓶を片手にしたゾロだった。
「茶ァくらい自分でやれよ」
「なんだゾロか」
吐き捨ててナミはケトルを火にかける。キッチンの中で棚を開けたり閉めたりしているゾロを避けながら冷蔵庫の鍵を開けて中からとっておいたお茶菓子を取り出すと、その横から手が伸びて冷蔵庫の中のハムを掴んだ。
「怒られても知らないわよ?」
「お前が言わなければバレない」
ナミが首を反らして見上げるとゾロは口角を吊り上げて見下ろす。
ナミは正面からゾロの顔を見てその事に初めて気がついた。
「…ゾロ!? その目、怪我!?」
「うるせェな。放っとけ」
「馬鹿なの!? 放っとける訳ないでしょ!チョッパー!来て…ッ」
ナミの大声にゾロは顔をしかめて、自分の腕を掴んでキッチンを出ようとするナミを引きとめる。
「アホか。今さら騒ぐな」
「今さらって何よっ…!?」
振り向いたナミの顔をまじまじと見つめて、ゾロはナミの髪を指で撫でた。
「お前…髪切ったのか?」
「……は?」
「なんだ。勿体ねェな、長いのも似合ってたのに」
ふぅん、と呟きながら髪を摘んでいたゾロの手はナミの肩から背中へと流れていく。
「な、なに言ってんのよ…?」
計らずも抱き留められた上にいつもよりずっと近いゾロの顔に、ナミは赤くなった顔を見られたくなくてゾロの胸に両手を突いて体を引き剥がした。
「ナミ、コックに言うんじゃねェぞ」
あんな触り方は卑怯なんじゃないのとナミが動悸と戦っている間に、ゾロはハムを掲げてそう言うとダイニングを出て行った。
「ちょっと待っ…ゾロ!」
「痛ェ!!」
ナミは慌てて追いかけ、閉じていくドアを勢いよく開くとゾロが声を上げた。
「ゾロ!」
「…っ、テメェ、いきなり何す…だぁァ!?」
ドアに打ち付けたらしい額を押さえるゾロの顔にナミが飛びついた。そのまま勢いで押し倒して馬乗りになる。
「やっぱりチョッパーに診てもらっ……あれ?」
言いながらナミはゾロの頬を両手で挟みその顔を覗き込んだ。
「目が開いてる?」
「何言ってんだお前…!っ乗るな!」
早く下りろと腹の上に跨がるナミにゾロは顔を赤く染めて怒鳴るが自分の手で触れて退かせる勇気は無い。ナミは呑気に首を捻ってゾロの顔を見下ろしている。
「…どういうこと?」
「こっちのセリフだ!ケンカ売ってんのかてめェ!」
「コラー!」
船首付近にいたサンジが目敏く二人を見つけて叫びながら全速力で走ってきた。
「ナミさんに何してんだクソマリモ!! 代われ!」
「ふざけんなどう見てもおれが被害者だろうが!代われって何だ!」
口論する二人に挟まれてナミは一人考えに耽っていたが、止む気配がなかったので二人の頭に両手の拳を振り下ろすと一瞬で黙らせた。
それを読書がてら眺めていたロビンは、やはり船の上で航海士を敵に回すべきではないと一人納得していた。