彼女が幼女に若返り? 「んナミすゎ〜ん!ジュースのおかわりは〜…!!?」
甲板で眠るナミに回転しながら駆け寄ったサンジは、それを目にした瞬間ショックで固まった。
遠心力で飛んでいったトレイがぐわんぐわんと音を立てて床で回る。
「んー…なぁに?サンジくん…?」
その音で目が覚めたナミは、目を擦りながら起きて、自身の手足の小ささに声を失った。
「あら?航海士さん?可愛くなったものね」
「私はいつも可愛いでしょ?じゃなくて…これは一体…?」
両手を握ったり開いたり、体を見回したりしていたナミは、花に水やりを終えたロビンとサンジに連れられて甲板に降りて行く。
甲板では三人の少年が芝生の上でウソップの発明で遊んでいた。気付いたルフィが首をのばしてロビンを見る。
「ん?ロビンこども生んだのか?」
「ええ!? そんな兆候無かったぞ!? おれ医者なのに気づけないなんて…!」
「待て待て今生んだにしてはデカいだろ子供が!隠し子か!?」
少女の存在に気付いた二人も騒ぎ、サンジは咳払いをすると恭しい動作で少女を三人の前に進めて言う。
「よく聞けクソ野郎共。この愛らしい少女はナミさんだ」
「ナミはこどもじゃないだろ」
「サンジ大丈夫か?眉毛だけじゃないのか?」
「お前らの目の方が節穴だろ!!」
サンジも加わって騒ぎ出した男たちを無視して、ナミはおろおろするチョッパーの前にしゃがみ込む。
「チョッパー。さっきくれた薬ってビタミン剤じゃないの?」
「え?肌荒れが気になるって言ってたから、皮膚の細胞から活性化して若返るよう、な……」
若返る。
自分の発言に見る見る青ざめていくチョッパーに、にっこりと笑ってナミは拳骨を落としてから立ち上がる。
「わかってるわね?チョッパー?」
「あい…ずぐに中和剤づぐりまず…」
床に伏して頭にたんこぶを作りながらしくしく泣いて言うチョッパーに、はしゃいでいた三人は何故か冷や汗をかいて直立不動で整列していた。
兎に角、外見が変わった以外に実害が無いなら問題はないと、ナミはチョッパー以外には通常業務を言い渡し、自分はミカンの木の手入れに向かった。
「あっ、届かない…」
普段なら剪定鋏を使えば全体に手が行き届くのだが、身長が低くなった分、上部にはそのままでは届かない。脚立か何か踏み台になるものを持ってくるべきだったと鋏を構えたままナミはミカンの木を睨む。
「何やってんだ?」
「うるさいわね!届かないのよ」
通りすがりのゾロは、威嚇するように背伸びをして鋏を持ち上げていたナミの背中に声をかけただけで怒鳴られた。
「…フランキー、脚立とかあるか?」
「オゥ!すぐ持ってきてやるよ」
ゾロが訊ねると一緒にいたフランキーは一度ポーズをとってから大股で歩いて行く。ゾロはナミの側まで行くと同じようにミカンの木を見上げた。
「どこだ?」
「そこ……きゃぁっ!」
答えた途端、ひょい、と腕で抱え上げられたナミは驚いて短く悲鳴を上げた。いきなり何をするのかと怒鳴ってやろうと振り返って見たゾロの表情が意外と真面目だったので、とりあえず先に作業を済ます事にした。
「…も、もういい…から…」
幾つか枝を切り落とした後、言われてナミを下ろすとゾロは今度は切り落とされた枝を拾い集める。
「あんた……ロリコン?」
「あァ?人聞きの悪いこと言うな」
凶悪顔で睨むゾロにナミは怯む様子も無く唇を尖らせて不満げに言う。
「なによ、気安く触ってくれるじゃないの」
「あ?…あー…それはお前の方だろ」
「あら、今頃気付いたの」
鎌をかけたつもりが逆に文句を言われてしまったゾロは何を言ってもやぶ蛇になりそうだなと思って返す言葉に詰まる。
「知らなかったわー、変態だったなんて」
「アゥ!スーパーだぜ!?」
脚立を担いで現れたフランキーの背中にナミはうるさい、と毛虫がついたまま切り落とした枝をなすりつけた。
恩を仇で返す所行にフランキーは覚えてやがれと雑魚キャラのような捨て台詞を言って背中を押さえながらチョッパーの保健室に駆け込んで行く。
「このナミさんがあれだけ手薬煉引いてあげてるってのに、道理で何もしない訳よね」
何事もなかったように話を再開するナミにゾロは閉口したが、仕方なく終わったと思った会話を続けた。
「何だそりゃ…。だいたい何しろっつーんだ…」
「…ちょっ…、やだ!乙女の口から言わす気?」
「本当に何をさせる気だよ…。大体、口にするのも憚られるような事したらお前……金取るだろ」
フランキーが置き捨てて行った脚立を組み立てながらゾロが唸るように呟くと、ナミが腰に手をおいて仁王立ちをして強い口調で言い切る。
「当然でしょ!」
「当然なのかよ!只だろ普通!? っていうか否定しとけそこは!」
「あんた知らないの?」
振り返ったゾロに鋏を押し付け、その横を通り抜けて派手な音を立てながらナミは脚立を登る。頂上に腰を下ろすと近くになったゾロの顔に指を突きつけて言う。
「タダより高いものは無いのよ?」
ふふん、と高飛車に言いきられて、ゾロは一瞬呆気に取られた顔をしたが、一度大きく息を吐いて笑うと、天を仰いで参った、と呟いた。