キスで目覚めるらしい?「どうしてゾロはいつも寝てるんだ?」
海賊になって日の浅い医者は疑問に思った事を近くにいた仲間たちに訊ねてみた。
「光合成だあれは」
「一日の半分を寝てないといけない病なんじゃねェか?」
料理人と狙撃主は笑いながら言って、病気と聞いたトナカイは慌てて医者〜!と右往左往した挙句おまえだろ、と狙撃主に突っ込まれた。
「呪いよ。三秒横になると寝てしまうのよ」
「眠り姫みたいね」
騒ぎを聞き付けた航海士は呆れた口調で言い、考古学者は口許で笑う。
「眠り姫って?」
知らない単語に医者は学者を見上げ、学者はその頭を撫でながら答えた。
「魔女に眠り続ける呪いをかけられた姫が王子のキスで目を覚ます、そんな童話よ」
「ふ〜ん…じゃぁ王子にキスされたらゾロも起きるかな」
「Mr.プリンス、ちょっと起こしてこいよ」
「ふざけんなオロすぞてめェ!!!」
長っ鼻の冗談に料理人は怒りで顔を赤くしながら怒鳴る。
「サンジ〜!昼飯〜!!」
船首にぶら下がっていた船長が甲板に着地しながら叫ぶと、料理人は煙草を指で摘みながら振り返る。
「出来てるよ。ルフィ勝手に食うんじゃねぇ!」
料理人が駆け出した事により、医者と狙撃主も慌ててキッチンへ向かって走り出す。
「航海士さん?」
「すぐ行くわ。そいつも私が起こしていくから」
考古学者の振り返っての問いに航海士はみかん畑に足を向けて手を振った。
みかん一つと交換で船長に汲ませた水を撒きながら航海士は船尾で動かない緑頭を見やる。
じょうろを脇に置いてすぐ側にしゃがみ、少し俯いたその顔を覗き込む。船端に凭れて腕を組んで目を瞑る剣士の顔は意外に穏やかだ。起きてる時と違って眉間に皺が無い。
暫く寝顔を眺めた後、船長に与えるみかんの事を思い出して立ち上がる。
「なんだ。やんねェのか」
背を向けた航海士に剣士の声が投げられる。
「…いつから起きてたのよ」
「おまえらがうるせェんだよ」
不愉快げに航海士に問われて剣士は欠伸をしながら答える。飯か、と呟いて立ち上がった男に向かって女は持っていたみかんを投げ付けた。
「なによ、このムッツリマリモっ」
投げられたみかんを片手で受け止めた剣士は航海士の手からじょうろを奪うと駄賃とばかりに受け止めたみかんを頬張った。
「マリモ言うな」
「怒るとこ間違えてるわよ」
眉間に皺を寄せて唸った男に女は呆れた声で応え、新しいみかんを木から物色する。
「大体あんたが姫ってオカシイでしょ。むしろ可愛い私でしょ」
「おまえは魔女だ」
男は当然とばかりに言い切って、みかんの皮を船の外に投げ捨てた。女は声を立てて笑うとみかん片手に男に振り返 る。
「そうね。用心しないと呪われちゃうわよ?」
「もう遅ェよ」
ため息を吐いて男は硬い靴音を鳴らしながら歩いて行く。
「あんたはあれよ、狼!赤頭巾でしょ?七匹の子山羊でしょ、三匹の子豚でしょ?全〜部食べちゃう悪役!」
「魔女は食えねェのか」
「え?」
背中をばしばし叩いていた女は振り向いた男に唇を舐められた。
「…みかん…?」
呟いて男はキッチンに入って行く。
女は顔を真っ赤にして立ち尽くしていたが、すぐに男が扉を開けてキッチンから引き返してきた。
「おまえな!止めろよ!」
「…なっ」
あんたが勝手にやったんでしょう、と思ったナミを通り越してゾロは頭を掻いて呟く。
「なんでじょうろ持ってキッチン入ってんだおれは。っつうか、何故じょうろ持ってんだ?」
なぁ、とナミに振り返ったゾロは怪訝そうに眉を顰めた。
「顔赤いぞおまえ。どうした?」
「あっ、あたりまえでしょバカーーー!!」
キッチンに戻ってきたゾロの頬が手のひらの形に赤くなっていたが、ナミの形相に理由を問い質す猛者はいなかった。