繋いだ指の間から地を這う汚い雲を見た「なぁ」
「なに?」
通り雨はこの雲が抜ければ止みそうだ。
雨宿り中に偶然会った中学の時の同級生は、隣に立ったまま足下の水溜まりを睨んでいた。
「女できたか?」
「え。いや、まだ……」
待て。
なに正直に答えてんだ俺さま。此処は最近別れちゃってーとか見栄を張るところじゃないか?どうせ学校違うんだ、バレたりしないだろう。しかし今さら言い直すのも面倒で、好奇心にも勝てないので。
「そっちは?」
「いいや」
なんかいまいちだと言う。選り好みする程の出会いはあるらしい。別に羨ましくなんかない。
「……あれ?男子校じゃなかったっけ?」
「彼氏も出来ないぜ?」
「その訂正はどうかなあ……」
節操無いみたいだな。節操無い癖に選ぶんだ。別に羨ましくなんか。
なんでだろうな、と本気で不思議がる隣人は、生長する水溜まりに追いやられて肩をぶつけてきた。
「雲の上の人なんだよ」
「仙人かよ」
冗談か本気かわかんなかったので、とりあえず違うよーと笑っておいた。
「有名進学校だし、お金持ちだし、一応美人だしさ。なのに喧嘩っぱや……腕力あるし?」
やっぱり進学校はガリガリ勉強してる眼鏡の人ばっかりなんだろうか。その中に一人眼帯したヤンキー(っぽい人)が居たら。
「一歩引いちゃうっていうか、壁を感じるっていうの?」
良く言えば雲上、悪く言えば浮いている。出来れば話し掛けたくはない。
でも中学の時は女子の間で王子って渾名だった。孤高な感じだったらしい。
「アンタもか?」
「俺ぇ?」
旦那と早食い競争したり、体育の授業に真剣勝負したり、意外と鍋奉行だったりをどう見たら王子になるんだ。
「……うん、そうだね」
それでも。
高校が別々になって、一人ならご飯食べにおいでなんて気軽には言えなくなった。
「だからあんたから近付かないと」
彼女どころか友達もできないよと、言おうとした口は相手のそれで塞がれた。
「……あんたさ」
彼氏が欲しいのか。それとも敷ければ何でも良くなったのか。
「……あー……」
どうしようか。
離れる時に見た睫毛が緊張にか揺れ過ぎだったとか。安定の為に掴んだだろう手を放せないでいるだとか。見てしまうと。脳内を駆け巡る雑言を吐き出すか否か。
「……やっぱいいや」
仕方が無いので掴まれた指を交叉してやると、握り返してきた。なんて単純。
「そこでウチ来る?が言えないダメな奴だよアンタは」
「ってーか来る気かよ!」
何があろうと上から目線は変わらないのか。生意気な。やっぱ手を離そうとしたら、がっちり捕まえられていた。
振り解こうとしたその不自由な掌の下、水溜まりに映る白い影を見た。
案外雲の上なんて近いのかも知れない。
「……あれ!? やんでる!?」
「むしろ晴れてる」
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高校生 政→佐
わざわざ会いに来た政宗様
若干の政←佐に続くなら →