月が蒼い夜は予感がする。
屹度彼は此処に来るだろう。

あの夜の月も蒼かった。
呼ばれた気がして棲家から顔を出せば、幼子を抱いた母親が跪いて泣いていた。言葉と光を知らない子供を救って欲しいと髪を振り乱し懇願した。人間が生きようが死のうがそんな些事はどうだってよかった。
ただ月が蒼くて気分が良かった。子供の髪の色も、人間にしては中々に立派だった。だから子供に片眼を呉れてやった。それ以来片目の見る景色が見える様になった。
木を切り刻んで組み立てたような住家だった。堅苦しい父親に穏和な母親によく笑う赤い髪の子供と暮らした。目線が同じだからか、誰よりも子供と一緒だった。いつも赤い髪の子供を見ていた。
ある日住んでいた屋敷が火に飲まれた。二人で手を繋いで逃げた。親とはぐれた。探しても親を見つける事は出来なかった。それでも繋いだ手は放さなかった。子供も離さないでいてくれた。月が蒼かった。
二人で話して、二人で生きていく事を決めた。いつだって二人でいた。赤い髪の子供が大人になってもずっと一緒にいた。二人でいるうちに回りに人間が増えた。徒党を組んで物を奪う事を生業にした。敵も増えた。けれど赤い髪の彼が笑っていられる事が肝要であって、そして彼はいつだって笑っていた。泣いた顔は見た事が無かった。
月の蒼い夜だった。
武器を持った人間が押し寄せてきた。逃げ惑う人々に辺りを舐める炎。身体は傷を負っていて動けない。目の前で初めて泣く彼を。
ずっと守っていくのだと思っていた。
ずっと一緒にいるのだと信じていた。

最後に見た景色は目玉に触れる指。頷く赤い髪。蒼い月。それ以来失った目は何も映さない。

予感がある。
屹度彼は此処に来るだろう。
失った目を持って。

自分の眼で彼を映して、名を訊ねる。
許されるなら触れて。

屹度彼は来るだろう。
だって今夜の月はこんなに蒼い。

跳ねる鼓動の理由は、きっと。


おまえの所為だというのにね



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妖怪(和式)モノ 小太×佐←政
母親は狐と人間の子、子供は双子。目が見えない方が風魔
別名、月のwaltz ≫ 月の宮殿の王子さま(筆頭)は貴方(風魔)に似た瞳で笑うので

どこか深い森の中で貴方を捜しさまようなら →
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2014/10/27 comment ( 0 )







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