奪うお話。1 -先生side*


 ───やっと、ここまで進展できた。
 それが正直な感想。



 莉緒と出会って1年と少し。実際に付き合い始めて1ヶ月弱。とはいえ、想い合っていた期間はそれなりに長い。
 忍耐力が強いとは決して言えない自分が、莉緒が卒業を迎える日まで手を出さず自制できた点は、我ながらよく頑張ったと拍手を送りたい。更に「未成年だから」「元教え子だから」なんて理由を並べて、彼女が20歳を迎えるまでは抱かないと決めていたくらいだから、その健気な姿勢を褒めてもらいたいくらいだ。


『教師なら、生徒に手を出さないのは当然』


 それは正解だし、俺自身もそう思ってる。
 彼女が高校在学中、未遂とはいえ1度だけ触れてしまったこともあるし、責められようが教師失格の烙印を押されようがそれは当たり前の話で、反論の余地も無い。
 けれど本音を言えば、ずっと想いを寄せていた莉緒に早く触れたかった。もっと別の形で特別扱いしたかった。自分達の立場を守る為に卒業まで耐えたけど、そもそも俺が彼女に想いを告げなければ、莉緒も学生らしい青春を別の誰かと過ごせていたかもしれないし、俺が教師でなければ、もっと早くに恋人らしいことが出来ただろうに、とも思う。
 それでも諦めきれなかったから、こうして今に至っている。今更、たらればを言ったところで仕方の無い話だ。

 やっと恋人という関係になれたとしても、莉緒がまだ19歳という現実が心にブレーキを掛ける。やっと生徒以上の存在として接することが出来る、さあ抱こう。と楽観的に考えられるほど、自分達は馬鹿じゃない。
 「いつまでも先生の影を追っていたら駄目だ」と告げた、彼女自身のあの言葉を聞かなければ、恐らく今でも、莉緒を抱こうなんて意思は湧かなかっただろう。

 俺にはもうひとつ、懸念している事がある。


『どうして、私と離れて寝たんですか?』


 あの言葉を聞いた時、内心ヒヤリとした。
 鈍感なように見えて、実は妙に勘の鋭いところがある莉緒だ。やはり俺の違和感に薄々気付いていたようだった。
 あやふやな返事で適当に流してしまったけれど、この件はちゃんと、本人と話し合わなければならないだろうなと考える。
 実家で彼女に手を出した事を、ずっと悔やんでいることを。



 未成年者は経験が浅いだけではなく、判断力も弱い。拒否する力も身についていない。
 出会った頃から感じていた事だが、莉緒はどこか、"大人の男性"に怯えている節がある。それは莉緒だけじゃなく、若年層全体に言えることだ。

 高校生や社会人なりたての子、特に女の子が大人に意見することはかなりの勇気が必要だし、普通は断れない。それを好意だと受け止めるのは間違いで、本来、異性と付き合うことの意味を、大人が事前に教えてあげなければいけなかった。あんな風に、自身の欲の赴くままに彼女に触れていいはずがない。同意の無い性行為なんて、性犯罪者と何ら変わらないのだから。

 相手への好意があるかないかは別として、異性に抱かれるという事はどういうことか。
 嫌だったら断ってもいいし、本気で嫌がってる相手に無理強いするのは間違ってる。彼氏の家に泊まることも、『そういう流れになる』と莉緒は思っていたのかもしれないけれど、その思考回路自体、本来は間違っている。外泊イコール性行為に同意した、と見なすのは、あまりにも暴力的な話だ。
 彼女と離れてソファーで寝た理由のひとつには、その考えを改めてほしい気持ちがあった。今日だって、本当は別々の部屋で寝るつもりだった。
 あとは単純に、自分への戒めの意味もある。
 好きな子に触れたいと思う気持ちは、やっぱり止められそうにないから。

 性教育を学ぶ機会がない日本という国は、ネットや紙媒体、周囲の情報に頼る他なく、その情報自体も間違った認識のまま拡散してしまっている。莉緒自身も、誤った知識を『知っていて当たり前の知識』だと捉えていた。
 彼女の実家で、安易に触れて傷つけてしまったことを猛反省したけれど、反省だけなら猿でもできることだ。いずれその時が来たら、莉緒にはちゃんと言葉で伝えようと思っていたし、自分はその責務を果たさなきゃいけない立場だと理解していた。

 莉緒を子供扱いしない、ちゃんと恋人だと認識していることも。
 抱きたい意思があることも。
 無理強いする気はないことも。
 痛いものでも怖いものでもないことも。
 勢いや雰囲気に流されて、性行為に望んで欲しくないことも。


 ………なんて格好つけたところで、


 『覚悟が決まったら、来て』
 『待ってるから』


 なんて告げるあたり、俺は相当ズルい。
 流されて欲しくないとか思いつつ、結局は期待してたんじゃないか。

 本当に恋愛というものは厄介だ。うまくいかない事の方が圧倒的に多い。
 普段であれば難なく出来ることも、莉緒が絡むと調子が狂う。

 莉緒が性に対して抱いてる不安要素は、口で言ったところで除去できるものじゃない。そして前に進むことを怖がっていても、何も解決しない。
 好きな人を抱ける、抱かれることに、重圧やストレスを感じる必要は無いんだと、俺なりに言葉や態度で伝えてきたつもりだった。

 何がキッカケだったのかは正直わからないが、今、ベッドに組み敷いている彼女はどこかサッパリとした顔つきで、苦渋に満ちた表情ではなくなっていた。長年抱いていた迷いを、吹っ切ったような雰囲気を纏っている。堅苦しさもなく、和らいだ空気に安堵した。



 いつも元気で前向きで。
 バイタリティーに富んでいて。
 でも恋愛に対しては弱腰で、臆病だった女の子。

 やっと、自ら飛び込んできてくれた。









「ふ、ひゃ、あん」

 時折身体を震わせながら、小さく喘ぐ莉緒が愛しい。ある程度ナカを解して弱点を探り当てれば、びくっと細い腰が跳ねた。

 いまだに不慣れな異物感に、最初こそは声も控えめだったけれど、それも次第に甘い嬌声へと変わっていく。華奢な身体は愛でれば愛でるほど、俺に応えようと甘い愛液を溢れ出す。
 増えた水気は指の抽送をスムーズなものに変え、快感を覚え始めた内部の刺激に、莉緒は更に可愛い声で啼き始めた。

「ん、あ、そこちがう……」
「違う? どこだろね、莉緒のイイところ」
「あのね、そこじゃなくて、もっと奥の方だと思うの」

 一生懸命、自分の気持ちいい場所を俺に伝えようとする莉緒がたまらなく可愛い。
 つい意地悪して性感帯から指を外せば、彼女は不満そうに目を吊り上げた。

「む、ちがうのっ、千春くんのへたくそ!」
「………」

 容赦ない。

 弱腰な態度から一転、無敵モードに突入した莉緒はなかなか鬼畜だった。
 内気で気弱な面もあるけれど、基本的にボジティブ思考な莉緒は、凹むことも多いけれど立ち直るのも早い。しかも、開き直った彼女のメンタルはガチで強い。
 それは高校在学の時から知っていたけれど、今の莉緒は例えるならば、ちびマリオがキノコとスターを食って、スーパーマリオ無敵verに変貌するシーン並に強い。

 敵に当たろうが壁にぶつかろうが、穴に落ちなければお構いなし。
 男に直球で「ヘタクソ」ってよく言えたね君。これが俺じゃなかったら、普通に男は泣いてるよ。心に一生消えない傷を負ってたよ。

「ごめんごめん。ちゃんとやるね」

 これ以上苛めたら、次はどんな罵声を浴びせられるかわからない。ここは大人しく従った方がいいと判断して(逆らったら後が面倒くさそう)莉緒の片足を持ち上げた。

「……ぁ、あんっ!」

 ぐちゅ、と最奥まで指を埋めれば、甲高い声が上がる。足の指に、きゅっと力が篭るのを横目で確認する。感じている証拠だ。

 今の莉緒からは、声を抑えようと恥じらう姿も見受けられない。そんな余裕すらないようで、俺の愛撫に素直に感じて喘いでくれる。
 性にオープンになり過ぎるのも問題はあるが、これはこれでまた可愛い。いや、莉緒は何やっても可愛い。娘溺愛の莉子さんが、俺の脳内に君臨しているような気がする。

「ん、やぁ、きもちい……っ」
「うん、たくさん気持ちよくしてあげるから、莉緒もいっぱいイこうね。ほら、ここ。手前の奥の方。莉緒の好きな場所だよ」
「あっ、あぁ、あんっ」

 莉緒の弱点なんて、本当は既に熟知してる。指を折り曲げて集中攻撃すれば、細い腰が大きく仰け反り、くたりと一気に脱力した。
 奥から怒涛に溢れる蜜が、ゆっくりと内股を伝う。

「え、ちょっと莉緒、濡れすぎじゃない? 大丈夫? 心配になってきたよ俺」
「ふえ、そんなこと言っちゃやだあ……」

 大きな目がうるうると潤んで、顔が真っ赤に染まっている。白い肌も汗ばんで呼吸も荒い。
 快感に蕩けたこの表情は、俺しか知らないもの。そう思うだけで、この上ない優越感と独占欲が生まれる。

「……千春くん、あの……あの、ね」

 莉緒の手が、俺のTシャツを緩く掴む。絶頂を迎えたばかりで、グイグイ引っ張る力は酷く弱々しい。
 何かと耳を傾ければ、小さな口がモゴモゴと、ビックリ仰天な言葉を囁いた。

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