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美容師と船医




なぎさは美容師であってトリマーではないのだが、チョッパー曰く洗い方や力加減は他のみんなよりもずっと気持ちがいいらしい。元はトナカイだがヒトヒトの実を食べたとだけあって、感覚は人に近いものがあるのだろう。

しかしチョッパーがなぎさに体を洗ってもらうのが好きな理由は、もう一つあった。
ルフィとウソップは頻繁にチョッパーにじゃれついてくるし、ゾロはよくチョッパーを昼寝に誘うようになった。ナミは海図や航海日誌を書くとき、ロビンは読書をする時チョッパーを膝の上に乗せ時々彼の頭を撫でる。フランキーも作業中よくチョッパーを足の間に乗せているし、サンジはおやつを頬張るチョッパーの横にわざわざ座り頭や頬を無意識に撫でていることが増えた。死んで骨だけブルックでさえもチョッパーのお昼寝タイムには彼を膝の上に座らせバイオリンで子守唄を奏でる。大きさ、形(時には素材までも)こそバラバラだが優しく愛に溢れたクルー達の手のひらが、チョッパーは大好きだった。



この日もなぎさはチョッパーとお風呂に入り体を洗ってあげていた。頭や体を洗ってあげている時のチョッパーの幸せそうな顔に、思わずなぎさの頬も緩む。

風呂から上がり、毛をドライヤーで乾かし丁寧にブラッシングをしてチョッパーを先にみんなのところへ行かせたあと、なぎさも女性陣がいるであろうアクアリウムへ向かう。

アクアリウムでは、ナミがチョッパーを抱き上げ、グリグリと頬を寄せていた。隣に座るロビンもチョッパーの頭を優しく撫でながら柔らかな笑みを浮かべている。


「んー!やっぱりなぎさがお風呂に入れた後のチョッパーは格別ねぇ…!」


チョッパーは毎日風呂に入るわけではないため、入浴直後のふかふかな毛並みを毎回クルー達は密かに競っていた。今回の勝者はナミとロビン。くすぐったそうに身を捩るチョッパーも満更ではなさそうだ。

バン!と勢いよくドアが開き、我らが船長、ルフィが大股で部屋に入ってきた。如何にも不満ですと言わんばかりに眉を顰め唇を尖らせている。


「おい!ナミとロビンだけずりーぞ!風呂上がりのチョッパーを独り占めしやがって!」


この場合厳密にはナミとロビンの二人占めになるのだがルフィのことだ、そんなことを気にするはずもなく、彼にとって今最も大切なのは風呂上がりのチョッパーを一番乗りで堪能できなかったことであろう。
ルフィはビヨンと腕を伸ばし、ナミからチョッパーを剥ぎ取った。


「あら。」

「ちょっとルフィ!今私たちがチョッパーと遊んでるのよ!」

「もう十分楽しんだだろ!?それよりチョッパー、今度はおれと遊ぼう!」

「やめろお前ら!おれはおもちゃじゃねぇ!」


クルーに甘やかされるのが好きなチョッパーも取り合いをされるのは不満らしいが、そんなことも気にせずナミとルフィは口論を続けていた。

しかしその様子を眺めるなぎさには、みんなに言っていない秘密があった。暗黙のもと行われるこのチョッパー争奪戦、いつも本当の勝者はただ一人であった。




「はいっ終わったよ、チョッパー。」

「おう!ありがとうなぎさ、今日も気持ちよかったぞ!」

「それはよかった!…はい、てことで今日の代金を頂戴いたします。」


突然接客口調になったなぎさは両手を大きく広げた。チョッパーはニッと笑うと、なぎさの胸に飛び込んだ。ギュッとチョッパーを抱きしめ深く息を吸えばボディソープの香りが肺まで入ってきて心地が良い。毛並みは彼の好物である綿飴のようにふわふわ、さらさらで頬を掠める毛に擽ったさすら感じる。十数秒ほどチョッパーを抱きしめたあと、なぎさはゆっくりと腕を離した。鼻がくっつきそうなほどの距離で視線が交じり合ったかと思えば、どちらともなくクスクスと笑いだす。

「ありがとう。じゃ、みんなのところに行っておいでよ。」

「おう!」

閉じた扉の向こうからパタパタと可愛らしい足音が遠のいていく。

今日の“2位”は一体誰なのか。
それを予想し答え合わせをするのも、なぎさの密かな楽しみであった。

-fin-

(この船の癒しは私が守る)

(癒しこそ正義)









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