「なぎさ」
ぶっきらぼうなその声が一体誰のものなのか、振り向かなくともわかる。振り向けばやはり綺麗な緑色の髪の彼だった。
「髪が耳にかかって邪魔なんだ。前髪も伸びてきてる。」
ゾロは決して「髪を切って」と言うことはないがこんな風にいつも頼んでくる。
「前切ってから時間経ったしね。いいよ!切ってあげる。」
シャンプー台に座り背中を倒すとすぐにゾロは目をつぶり大人しくなぎさに髪を洗われる。
特に話しかけてくることはないが「熱くない?」「かゆいところはない?」となぎさが聞くと「あぁ。」「ん。」と短く返事をしてくれるので寝ている訳ではないようだ。
地毛なのにも関わらず鮮やかな緑色の髪を毎回じっくりと観察しながら洗うのが楽しい。
髪を切るときもなぎさはその綺麗な緑色の髪を褒めながら切るのだが本人はそうは思っていないのか照れ隠しなのか嬉しそうな素振りは見せない。
「生まれつきだよね。すっごい綺麗な色で羨ましいよ。」
「そうか? 別に得したことはねぇがな。」
「でも遠くからでもすぐ見つけられるじゃない。迷子になった時はすごく役に立つしね。」
「おれは迷子にはならねぇ。」
「どの口が言ってんだか…」
「うるせぇ、おまえらが勝手にどっか行くのがわりぃんだ。」
「この前の島で出航の時間まで戻ってこなくて反対岸まで行っちゃってたのはどこの誰だっけ??」
「…」
「私がそっちまで探しに行かなきゃ見つからなかったんだからね。」
「だからあれは…」
「いい加減認めなさい方向音痴を」
「チッ」
「あっ今舌打ちしたでしょ!今からでも綺麗なまん丸のマリモヘアにできるんだからね。」
なぎさならやりかねないと思ったのかゾロは「うぐっ…」と言って固まりそれ以上何も言わなくなった。
というのも以前、前回切った時から長いこと間が空いてだいぶ髪が伸びきっていた時にふざけて前髪を揃えてやったところを偶然ルフィ、チョッパー、ウソップ、さらにはサンジにまで見られてしまいみんなに転げ回るほど笑われたのだ。(その日一日ゾロはなぎさたちと口を聞かなかった。)
「おれはあの時のことを一生許さねぇ。」
「あははは!そのあとちゃんと直してあげたじゃない!すごく似合ってたけどなぁ。」
「どこがだ!!」と鬼の形相で鏡越しにこちらを見てくるがこの一味に加わって久しいなぎさはそれにも慣れてしまっていた。
「ごめん、ごめんって!お詫びにまたツーブロック入れてあげるよ。」
ゾロはオシャレやファッションにてんで疎いので前回試しにほんのわずかだがツーブロックを入れてあげたところ他のクルー(そもそも興味がないルフィと犬猿の仲であるサンジ以外)に大好評だったのだ。
カットを終えカットクロスをとり
「お客さん、どうですか?」
とそれっぽく尋ねると
「おう、悪くはねぇ。ありがとよ。」
ニヤリと口角を上げ嬉しそうな顔をする。
よし、今日もこの気難しいお客さんに満足してもらえたみたいだ!
「今度あのエロコックの髪を変な風に切っておれを呼べ。倍返ししてやる。」
去り際にそんなことを言ってきた。余程根に持ってるらしい。
「んふふ。その話乗った。坊主にでもしてあげようかな?」
お互いサンジの坊主姿を想像してしまったらしく同時にプッと吹き出し二人で大笑いした。
-fin-
(たまにはおしゃれ)
(倍返しだ)
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