「ところでなぎさはどうする?レインベースも海軍やバロックワークスがうろついてて安全じゃねぇだろ。」
ゾロの一言に一味は一斉になぎさに視線を移す。
当初は安全な場所に隠れておく予定であったなぎさも今となっては随分と一味に巻き込まれてしまっていた。ビビも、なぎさを心配そうに見つめていた。
なぎさは、そんな彼女がルフィとの言い合いで涙を流す姿を思い出し、ぎゅっと拳を握った。
「私…私もアルバーナに行きたい…!」
「なぎささん…!」
「ほんとは、魔法はマグルの前で使っちゃいけない。でも今魔法省から何も言われないってことは、私は今魔法を使える状況ってこと。私の力でこの国を救えるなら、私はそうしたい…!
「仲間」なんだもん…やっぱり私だけ安全なところにはいられない。私、ビビを助けたい!」
左手に巻いた包帯を撫でながら力強く行ったなぎさに、ルフィはニッと笑った。
他のみんなも、力強い視線をなぎさに向けていた。
「そっか!じゃあなぎさも一緒に行こう!」
「でも、他の人に魔法は見せられないからね。きっと面倒なことになっちゃう。」
麦わらの一味以外の人たちに対しては変わらず魔法の存在を隠し忘却呪文をかけ続けることを条件に、なぎさもアルバーナへ向かうことになった。
***
「よーーし、出発!」
チョッパーがカニの手綱を取り進もうとすると、なぎさの隣にいたビビが突然宙に浮いた。腰に腕とフック、砂の塊だけが巻きついている。
「ビビ!!」
手を伸ばすが届かない。ビビが一体何に連れていかれようとしているかは分からないが良くない状況でないことは明確だった。
「アクシオ!〈フックよ来い!〉」
杖先を向けるとフックはビビと共に思った以上にあっけなくなぎさの方へ飛んできた。
受け止める力のないなぎさはビビと正面からぶつかり倒れこむ。
「なぎささん…!ありがとう!」
お礼を言うビビの背後に再び忍び寄るフックと砂。咄嗟にビビを押しのけたと思えば体に感じる浮遊感。腰には先ほど「呼び寄せ」たフックがなぎさの腰に引っかかり連れて行こうとする。ナノハナでも同じような目にあったな、フックだけが動いているのはもしかして魔法だろうか、となぎさの頭だけは呑気にそんなことを考えていた。
「なぎささん!!!」
ビビの叫びにも似た声が聞こえ我に返ると、既になぎさの体は宙に浮き巨大なカニから離れどこかへ連れ去られようとしていた。
どこへ連れていかれるのだろうか。
死ぬのだろうか。
元の世界に帰りたかった。
友達のさやかや先生たちにお別れも言っていない。
魔法があれば大丈夫だろうか。
バチン、という音がなぎさの思考を遮った。
ルフィがゴムの力でこちらへ飛んできてなぎさを抱えると、他のクルーの元へ力いっぱい投げた。
「うおっ!!」
ルフィがなぎさを投げた先にはゾロ。
正面からぶつかることを覚悟したなぎさはぎゅっと目をつぶったものの、体に感じた衝撃は思っていたよりも小さなもので、ゾロがしっかりと抱きとめてくれた証拠でもあった。
「ルフィ!」
「お前ら先行け!俺一人でいい!ちゃんと送り届けろよっ!ビビをウチまでちゃんと!」
ルフィの決意の強さを感じたなぎさたちはアルバーナへの道を急ぐことにした。
「ルフィさん!!アルバーナで!待ってるから!」
「おォ!!!!」
しばらくハサミ(ナミがカニにそう名前を付けた)を走らせていると、遠くに河が見えてくる。何かに気が付いたビビの顔が青ざめた。なぎさたちが乗るこのカニでは河は渡れないらしい。
「そうだ!ハサミは踊り子が大好きだ!!」
「これでいいの?」
「加速したぁ!エロパワーだーーー!!」
ナミがローブを脱ぎ踊り子の衣装を見せると、それを見たハサミの走るスピードが上がる。そのままハサミは河に突進し、エロパワーで水上を走った。
しかし重力に逆らえず沈んでいく巨体。
結局少し前に出会ったクンフー・ジュゴン達の助けも借り、なんとか反対側へ渡ることができた。どうやってアルバーナヘ向かうか考えていると、遠くから何かがこちらへやってくるのが見えた。
「何だ!!敵か!?も……もも、もう来やがったのか!!」
「違うっ!あれは……カルーっ!!それに“超カルガモ部隊”!迎えに来てくれたのね!」
クエー!と元気よく返事をするカルー。その他にカルーに似た大きなカルガモたちが並ぶ。彼らがなぎさ達をアルバーナまで乗せてくれるという。
アルバーナに入る門にはバロックワークスの幹部たちが待ち構えているだろうと判断した一味は、敵を混乱させるため複数に分かれて行くことにした。
「なぎさちゃんはビビちゃんと一緒に行ってくれ。」
そうサンジに言われたなぎさはビビと共に、先に行く他のクルーを見送った。
全員目深にフードを被り、誰が誰だか遠目からは判断がしにくい。
ビビはしばらく顔の前で手を組み動かなくなった。先に行った仲間たちの無事を祈るように。
「…ビビ、行こう!」
「ええ…!」
ビビとなぎさはもう一度それぞれの手綱を強く握りしめ、反乱軍の方へと向かった。
×