FF夢


 4-04





スカーレットと激闘?を繰り広げた次の日。
昨日と同じようにリラクゼーションルームのテーブルに座ってお茶を啜る。
自販機で買ったものだが、安っぽい味に懐かしさを感じて少しじーんとしてしまった。

ささみやクジャは元気かな・・・クラウドは無事にアバランチと合流できたのかな・・・

一人なのを良い事に考え事に耽っていると、背後から人の気配が近寄ってくるのに気付いた。
自分も鋭くなったものだ・・・とごくごく小さくため息を吐いて、平凡な女性が気づいてもおかしくない間合いになってから、後ろへ振り向いた。


「君かね、私の息子が見初めたというのは」
「え・・・、えっと・・・」
(うわっ、プレジデントだ!リアルな社長は初めて見たけど・・・醜悪な政治家って感じだわ)

振り向いた先には、現社長のプレジデント神羅が立っていた。
とりあえず背中を向けて座ったまま、というのは失礼な気がしたので、椅子から立ち上がり、プレジデントの方へ体を向ける。

「フン、私の顔すら知らんか?随分嫌われたものだな、なぁルーファウスよ」

その言葉と共に、プレジデントの背後からルーファウスが姿を現す。
昨日のようなバトルになったら・・・と若干危惧していたため、彼の登場はありがたいものだった。

だが、ほっとしたのもつかの間。
緩く笑ったルーファウスは、ゆっくりとこちらに歩み寄って来た。
そして隣に立ったと思いきや、私の腰に手を回して抱き寄せた。

なんだこの甘い体勢は!!!と叫びたいのを必死に耐え、ルーファウスに向かって笑みを見せる。
だが内心は心臓がドックンドックンと音を立て、指先が震えている。
無論、それらは全てルーファウスがうまく隠してくれているようだが。


「変な勘繰りはやめてくれ、親父。彼女には記憶が無いんだ。そこに一気に情報を入れるような真似はしたくなかったというだけだ」
「ほお・・・記憶障害のある女など、娶ってどうする」
「自分好みに育て上げるというのも一興だろう?」
「確かに、そういう楽しみ方もあるか・・・」

(この人達めちゃくちゃ怖い!なんていうか発想が鬼畜のソレだよ!それよりルーファウス近いんですけど。良い匂いするんですけど。イケメンなんですけど。だってアドベントチルドレンで初お披露目になったあの超絶イケメンだよ?あれが超至近距離にいて、しかも私、腰抱き寄せられてて、本当に勘弁して!ごちそうさまです!!)

心で無心になれ、無心になれ、と唱える一方、頭の中はミーハー魂でいっぱいになってしまった。

「まあ、見てくれは悪くないのが救いだな。喧しくないのも良い事だ」
(このクソ親父はっ倒していいかな。あ、でも近いうちにジェノバにやられるのかー。そう思うとすっごい後味悪いんですけど。でもこの人助けてたらなぁ・・・私死にそうだしやめとこ。ルーファウスの社長姿見たいし。本当ににごめんね社長さん、恨まないでね)

自分の愛と力が及ばない部分には介入しない!そんな自分ルールを思い出して、この現社長の未来を考えると、今までの苛々が全て憐憫の感情に変化していく。
不覚にも憐れみの微笑みが出てしまったほどだ。


「それじゃあ、失礼するよ。残り僅かなオフを2人で楽しみたいからな」

言い終わるや否やスタスタとプレジデントの前から歩き去るルーファウス。
勿論腰を抱かれたままの私も一緒に、癒しのリラクゼーションルームを後にした。


・・・思ってみれば、リラクゼーションルームでまともにリラックスできたことがない。




***




ルーファウスの先導でたどり着いた部屋は、副社長室だった。

広い室内とはいえ2人きりという、個人的に大変気まずい空気を味わっていると、ソファに座ったルーファウスが手招きをした。
重厚で高級そうな調度品に接触しないように、慎重に歩いてソファの横まで移動すると片手を引かれたので、そのまま彼のすぐ横に腰かける。
うわ、またこの至近距離だよ・・・という呟きを口内で抑えていると、おもむろにルーファウスが口を開いた。


「さっきはよく耐えたな」
「耐え・・・?」
(抱き寄せられたことに対して?それともおっさんの嫌味に対して?)

主語のない言葉をいまいち飲み込めないでいると、ルーファウスは薄く笑ってから、再び話し出した。

「親父にあれだけ毒を吐かれていたにもかかわらず、笑っていたからな」
「うーん・・・私と関わりのない人が、私をどう思っていても・・・どうでもいいですから」
「賢明だが、関わりがないワケではないだろう。君は私の婚約者候補なのだから」
「それって、設定上のコトでしょう?」
「そう思うか?」
「え?」

ルーファウスが内ポケットから携帯のようなものを取り出し操作する。
するとプチンという音を立てて、身体に取り付けられていた機器がシャットダウンした。

「私は、君を研究材料以上のものとして見ている。君は静かで、聡明で、美しく、そして他の人間とは違った存在だ。私の横にふさわしい女性なんだ」
「・・・私は、ただの人間ですよ?」

彼はゆったりとした手つきで私の髪を梳き、随分とご機嫌な様子だった。

(ルーファウス、何か勘違いしてるよね。まあ私、猫被ってるし当然か。しかし美しくはないだろにに。恋は盲目ってヤツかな?)
「大した訓練を受けていない筈の凡人が、魔晄に耐えうる精神力を持ち合わせているとでも?君は他の人間より優れている。そう・・・私よりも、だ」
「ルーファウスさんは私を過大評価してます」

緩くかぶりを振ってその言葉を否定しても、彼が考えを改めるはずもなく。

「いや、私の目に狂いは無い。君は常に冷静で、誰よりも広い視野を持っている。この会社内で誰に声をかけられようとも、君の心拍は乱れる事は無かった」
「さっきは乱れに乱れましたけど・・・」
「フッ、私だけに乱される、と捉えても?」
「その解釈は駄目です」

きっぱり、と言い切って否定すると、今度は愉快そうに喉をくつくつと鳴らして笑った。

「君は本当に、思い通りにならない女性だな。それが私をこの上なく愉しませると、わかっているのか?」
「心外です」
「だろうな。そうでなくては困る」

「・・・・・・じゃあ、私がころっとルーファウスさんに流されてしまったら、その時は興味をなくしてくれますか?」
「その時はそのまま君を手に入れるだけだ」
「遅いか早いかの違い、ってコトですね・・・」
「そういう事だな」

これ以上やんわり拒否しても無駄かな。と確信した私は、ささやかな抵抗をやめてソファに寄りかかる。
どうせこのビルからは姿を消すワケだし、クラウド達と行動すれば彼の方から離れていくだろう。

しばらく2人で副社長室にいると、ドアからノック音が聞こえた。
ゆるやかな空気が途切れたからか、ルーファウスは一瞬不快そうに眉間に皺を寄せたが、すぐにそれを取り払ってノックに応えた。

「入れ」という言葉の一拍後に入ってきたのは、黒い制服に身を包んだ金髪の女性。イリーナだった。
真剣な表情をした彼女は「失礼致します」と一礼してからこちらに歩いてきた。
一瞬彼女と視線が合ったので、会釈をしてからソファを離れる。

一見、気を遣ったような態度だが、あわよくばその内容を聞き取れないかという打算的な考えだった。
だが残念なことに、イリーナはルーファウスのすぐ傍で口頭での通達をしている。
ルーファウスも、それにいくつか質問しているようだったが、ハッキリと聞き取れない。


「そうか・・・システムは作動させたのか?」
「・・・はい、タークスのレノが・・・。もう間もなく・・・かと思われます」
「よろしい。ツォンが・・・の捕縛に向かっていると・・・?」
「ええ、その点も・・・なく。既にスキッフで・・・向かっております」
「捕縛後は宝条博士に・・・」
「はい」


表情を引き締めて報告をするイリーナは、FF7本編のようなコミカルな印象は無く、やっぱり精鋭の中の一人なんだと実感する。
イリーナが出て行くと同時に、ルーファウスが立ちあがりこちらへ歩み寄ってくる。

大きなガラスの向こう側を眺めていたような顔をしてそちらを振り返ると、意地の悪そうな顔をしたルーファウスがいた。

「これから面白い見世物が見れるぞ。もっとも、君の気に召すものとは思えないがな」

ルーファウスがそう言った瞬間、轟音がビル内に鳴り響き、大地震のような揺れが起きた。
私は予期せぬ揺れに倒れそうになるが、ルーファウスがそれを支える。
彼に捕まりながら窓の外に視線を戻すと、ゆっくりと崩れ落ちて行く7番街のプレートが目に映った。


「え・・・」
「親父の考えた"見せしめ"というものだ」
「だ、だって、あの上には、沢山の人が・・・住んで・・・・・・」
(しまった、もうプレート落下まで時間が進んでいたなんて・・・!クラウド達がここにくるのも時間の問題ってことか)

私が思案を巡らせていると、その様子を観察していたのかルーファウスが問いかけてきた。

「怒るか?それとも悲しむか?」
「・・・・・・よく、わかりません・・・混乱して・・・」
「そうか?落ち着き払っているかのように見えるが・・・さて、私にはやるべき事が出来た。この後は自由に行動するがいい」

足早に部屋を出て行ったルーファウス。
しばらく呆然としていたが、ハッとして体を取り巻く機器を確認する。

彼が忘れているのか、それともわざとかは計り知れないが、体を取り巻く機器は、未だにシャットダウンしたままだった。
それを身体から引き剥がし、部屋に置いたまま廊下に飛び出す。

プレート落下と言うことは、クラウドたちがここに来るまであと何時間か猶予がある。
とりあえず服装をどうにかしたいので、着替えるために部屋へと戻った。


さあ、いよいよ物語の幕開けだ。





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