FF夢


 3-06










ジリジリ照りつける熱い日差し。

乾燥した空気、延々と続く砂の大地。

ユラユラ立ち上る蜃気楼が、その先を見る意欲すら削いでいく。






 [ν]εγλ‐0007年 04月01日 天気・勘弁してほしい程の快晴

私とささみは、今砂漠の真ん中を歩いています。
ゴールドソーサーの丁度下、コレルプリズンがあるあたりの筈だ。
ゲームやってた時は、チョコボで砂漠を抜けられたから油断していたけど
ここら辺は目印になるものが何もない上に、砂漠の範囲が思っていた以上に広い・・・
それにささみも、この炎天下の中では私を乗せて走るのもつらいようです。
ちょっとピンチかも、です。



夜のうちに書いた日記の文章を思い出しながら、私とささみはフラフラ砂漠を歩いていた。
これほどまでにバイクが邪魔だと思ったことはない。

私が普段日よけに使っていた厚手の布は、今やささみの頭上にかかっている。
今までは日が強い場所と言っても、木陰に入れば涼しかったし、休憩を取ればなんとかなった。
だがここは、木も草もない砂漠のど真ん中。
黒い体毛を持つささみが生身のまま歩いていたら、とっくに熱中症になっていただろう。
私も極力白い服を着て、上着を頭の上にかけて歩いてはいるが・・・

ぬるま湯に変わった水を、ささみと一緒に飲んでから再び歩き出す。
結構、限界かも。と思い始めたころ、砂漠の蜃気楼の向こう側に何かが見えた。


「ん・・・あれ?とうとう目がおかしくなった?オアシスの幻覚でも見えてきたかなー」
「クェ・・・クエーッ!」

今まで元気がなかったささみが、いきなり足取り軽くステップを踏み始めた。
彼女なりの『バイクと一緒に走るぜ!』という意気込みの仕方だ。
モンスターバイクと言われるデイトナならば、この砂のなかも沈まずに進めるようだが、フラフラのささみを置いていくことはできないので、手押し車と化していたのだ。

彼女がその気ならば大丈夫だろう。
久方ぶりにそのバイクに跨って、勢いよくエンジンをふかした。




***




「うわあ・・・プレイしてた時はハラハライベントだったけど、天の助けに見えて来た」
「クエー」

ささみの先導でたどり着いたのは、かの有名?なコレルプリズンだった。
プリズンと名のつく場所なのに、こんなにも安心するのはこれ如何に。

「ささみも喉乾いたよね。お水貰いがてらあそこで休憩しようか」
「クエッ!」

やっと補整された地面の上に立てた事に幸せを感じつつ、私はプリズンパブのある場所を探し始めた。

「あ・・・そうだ!ここからゴールドソーサーに上がって、ゴンドラで北コレルまで行ったら楽じゃない?そうすればノースコレルエリアに出て、またあそこで船に乗せてもらう。んで、無事にアイシクルロッジに到着!って感じで。どう?」
「クエー!」

一々私の独り言に反応して、返事をくれるささみにどれだけ救われただろうか。
本当にこの子がいてよかったと、改めて実感した。


一歩中に入ると、そこはやはり「砂漠の監獄」という名にふさわしい場所だった。
濃い砂埃が舞い、鉄と錆と埃のにおいで満ちている。
パブを探してキョロキョロしていると、いつの間にか怪しげな男3人が私とささみを取り囲んでいた。

「姉ちゃん、ここじゃ見ねえ顔だな。新入りか?」
「そんなキレイな顔して何やったんだ?俺らに教えてくれよ」
「・・・・・・私は砂漠の外から来た旅の者ですので、ここに投獄されたワケではありません。水分を補給したいので、プリズンパブの場所を教えて下さいませんか?」

相手を刺激しないように、低姿勢を保ちつつ警戒していると、案の定男たちはニヤニヤ笑いながら、こちらに距離を詰めてきた。

「外からきたのか?そりゃあ大変だったな・・・」
「いきなりで悪いが、ここにバイクとチョコボなんて持ち込んだら・・・奪われるのがオチだぜ」


その声が合図なのか、横側から迫ってきた男が私の腕を狙って手を伸ばしてくる。

それを避け、体を翻すと同時に腕を相手の頬目がけて振りぬく。
この間、レノに防がれた裏拳だ。
今度はクリティカルヒットしたようで、頬と鼻の間に拳が入る。
パカァン、と小気味よい音が立ったと思うと、男は鼻血を出しながら地面に倒れ込んだ。

体制を整えると、残りの2人が一斉に襲い掛かってくるのが見えた。
一人に後ろ回し蹴りを入れてから、もう一人と向き合う。
と、思ったのだが、それよりも早くささみがチョコボキックを炸裂させ、倒れこんだ男を嘴でつつきまわしていた。

彼女も早く水が飲みたくてイライラしているのだろう。
怒り狂うささみに気圧されて、男2人がたじろぐ。

私もささみも強くなったものだ、と若干嬉しさを感じていると、最初に裏拳を入れた筈の男が復活し、素早くハーディ=デイトナに跨りエンジンを入れた。


しまった、と思ったのもつかの間。
男がクラッチレバーを僅かに離した瞬間、ギュルンという音と共に車体が大きく跳ね上がる。
そのまま振り回され、車体から弾き出された男だけが地面と熱烈なキッスを交わしていた。


「ごめんねお兄さん。これ、扱いが難しすぎるんだ。慣れないお兄さんじゃあ乗りこなせないよ」

ニッコリと笑みを浮かべながら言えば、慄いた表情でこちらを見上げる鼻血ダラダラのお兄さん。
そして未だに怒り狂っているささみを呼ぶと、彼女は案外ころりと機嫌を直してこちらに駆け寄ってきた。

「ついでに言っておくけど、この子も見ず知らずの人間を乗せてほいほい走ってくれるほど人懐っこくないからね。とくにお兄さん方みたいなガラのわるーい男性には、厳しいから」


こうして私とささみは、コレルプリズン内での案内人を3人も手に入れた。




***




プリズンパブで水分補給をした私たちは、少し休息をとった後、チョコボレースに参加申請するためにダインを訪ねた。

彼の部下を3人締め上げた、という話はとっくに伝わっていたようでダインは大笑いしながら、快く上へ連絡を取ってくれた。

ゲームでは、結構ぶっ壊れた人だと思っていたけど・・・
バレットがいたからなのかな、と少し複雑な思いになった。



そうして順調に上へと上がった私とささみとハーディ=デイトナ。

しばらく待合室のような場所で待っていると、程なくして園長のディオが現れた。
相変わらずパンツ一丁で歩き、そのムキムキの筋肉を惜しげもなくさらしているようだ。

「上に上がりたいというのは君かね」
「はい。砂漠の外からコレルプリズンに入った者です。このまま北上したいので、ゴールドソーサーから北コレルに繋がるロープウェイを使わせて頂きたいのですが」
「ううむ・・・確かに見た所、コレルプリズンの住人ではないようだが・・・あの場所からの人間を、一つ返事で上へ上がらせる訳にはいかないのだよ、お嬢さん」

ディオ園長は、至極困った表情で私の要望に応える。
勿論私も「ハイ、そうですか」とコレルプリズンから抜けられるとは思っていない。
むしろ、この流れを待っていた。

「あ、はい。勿論それは分かっています。チョコボレースで一等を取って、胸を張って上に行くつもりです!」

自信ありげな笑顔を浮かべてガッツポーズを取ると、横に立っているささみも誇らしげに胸を張る。
水分と栄養補給をして、十分な休憩を取った彼女ほど頼りになる存在は無い。

ディオ園長は何回か満足げに頷いたあと、選手控室につながる扉を開いた。


「なるほど、話が早くて助かる。出場はその山川チョコボかな?」
「はい。ささみっていいます」

片手を添えながらささみの紹介をすると、名前を聞いたディオ園長の表情が少し曇る。


「・・・・・・その子は貴重な種族だからな、非常食にはするんじゃないぞ」
「クエッ!?」

「分かってますよ!」





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