FF夢


 3-05






私が警戒を解かずにレノを見つめていると、彼は私の腕から手を放して唐突に話し始めた。


「まったく・・・前会った時は警戒心も危機感もまるでない箱入りだったのによ。随分とまぁ、社会の荒波に揉まれたご様子で」
「まぁね。我ながら成長したと思うよ」
「俺は一年前の世間知らず時代の方が好きだったぞ、と。」
「いつまでも世間知らずじゃ、私生きていかれないじゃん!」

以前会った時と変わらぬ様子に少し安堵し、遠慮なくツッコミを入れてしまう。
ああ、まだまだ警戒心が足らないな、なんて頭の中で浮かんでは消えるが、やっぱり彼も好きなキャラの一人だし、実際話してみてやっぱり格好良いし、私が彼を嫌えることは中々ないのだろうと実感した。


「ザックス・フェア」
「・・・何?いきなり」

レノが突然呟いたそのワード。
びくつきそうになる肩を何とか抑え、表情を平静に保つ。
上手くいってるかどうかわからないけれど、レノの表情が未だに何かを探るものだから、決定的な動揺はしていないと思う。
流石タークス、あなどれない。


「悪いな。ちょっとこの男について情報が欲しい。2人組みの男で、金髪と黒髪、片方は病人で、もう片方はソルジャーだ」
「へぇ・・・」
「お前、何か知ってるだろ?」

あまりにも当たり前のように聞いてくるので、まるで私の頭の中を見られているんじゃ・・・なんてふざけた事を思ってしまう。

「知らないよ。何で私が知ってると思ったの?」
「只の直感だぞ、と」

直感にしては、随分と思い切った言い方をしている。
レノの視線を受けるたびに、汗がツウ、と背中を伝う。

不自然な表情にならないように、挙動不審にならないように。
そう考えれば考えるほど、息の仕方が分からなくなる。手に汗が浮かんでくる、レノの目を見ていられなくなる。

こんな時はどうすればいいんだっけ・・・
笑う? 駄目、ヘラヘラしてごまかせる話題じゃない。
目線を落とす? 目を逸らすのも駄目、絶対に怪しまれちゃいけない。
悲しそうにする? 何で?私とザックス・フェアは無関係の人間でいなくちゃ。


「情報通なんだろ?神羅カンパニーを騒がせてる人間の顔くらいは知ってるだろうと思ってよ」
「だから・・・」
「情報料なら払う。お前の欲しい物を何でも用意させる。どんな些細なモノでもいい、不確定情報でも構わねえ」
「いい加減にしてよ、私は知らないって言ってるでしょ」
「頼む!他にアテがねーんだ」
「知らないってば!」

教えて、知らない、の押し問答に痺れを切らし
つい強めの言い方で返すと、意外にもレノがたじろいで一歩後ろに下がった。

「おいおい、怒るなよ。別にお前が損するワケじゃないんだから、いいだろ?」
「しつこい!」

だがその一歩を再び詰めてきたので、申し訳ないが彼の顔面を狙いつつ、勢いよく腕を振った。
だが、響くはずの打撃音は聞こえずに、パシッという軽やかな音がする。

所謂裏拳が決まる筈だったが、その腕はレノに掴まれ、逆に身動きが取れなくなってしまった。

「あっ・・・ぶねー。そうムキになんなよ、と」
「レノがうるさいからでしょ」
「お仕事には真面目な性質なんでね」

本当に真剣な顔をしたレノが、とても近くにいた。
きっと私たちの距離は5cmほどしか空いていないだろう。

緊迫した空気が漂う中、どこからか気の抜けた声が聞こえた。

「・・・・・・何やってんの、アンタら」

声のした方を見ると、そこには呆れ顔のユフィが気だるげに立っている。
これは好機!と思った私は、レノが彼女に声をかけるより早くユフィに助けを求めた。


「ユフィ!? 助けて、この人、痴漢!!」
「はぁ!?」

ユフィは目と口をかっ開いて驚きのリアクションをとる。
それに反応したレノが、焦って私の手を放す。

「オイオイオイ、違うぞ、俺は決して・・・」
「お前えぇ、神羅の上に痴漢だと!?許すまじ!」

手裏剣を振りかぶり、レノが立っている場所へと投げつけるユフィ。
それをさっと避けたレノは、自身もロッドを構えて戦闘態勢を取る。
私はは更にレノと距離を取ってから、マテリアに魔力を込め始めた。

空気が緊迫し、両者の息遣いが聞こえてきそうな静寂の中、魔法詠唱が終わり、ファイラが地面に直撃した。


ボゴオォォン、と凄まじい音が立つと同時に、土煙が巻き上がり視界を奪う。
その隙に、驚いているユフィの腕を掴んで一目散に逃げた。


「・・・ハァ、ったく。いらん事まで覚えやがってよ」

土煙の煙幕が収まるころには、そこにいるのはレノ一人だけだった。




***




必死に逃げてきた私たちは、私のハーディ=デイトナが置いてある木陰にたどり着いた。
そこにはすでにささみも到着していて、心配そうな目でこちらを見ている。


「はぁー・・・助かったぁ・・・。あ、ささみー!会いたかったよ!」
「クエッ?」
「フン、感謝してよね?」
「勿論。ありがとうね、ユフィ」

ユフィの方を向いて笑いながらお礼を言うと、それまで不機嫌そうだった彼女の表情が一変して明るく、恥ずかしさの混じった困惑顔になった。

「え、あ、うん、どういたしまして・・・」

どうやら、ツンデレ娘は素直な態度に弱いらしい。
その場でモジモジしていたユフィだが、顔を上げてそのまま踵を返した。


「ユフィ?」
「こっち側来ても面白い事ないし、アタシそろそろ北側行くから」
「え?いきなりだね・・・」
「いいでしょ!ユフィちゃんはアンタと違って多忙なの!じゃね」

ぶっきらぼうな声色で、振り返らないまま歩き去ってしまうユフィ。
彼女の短い髪の毛の間から見える耳が、真っ赤に染まっているのを見つけてしまえば、もう微笑む事しかできない。
彼女は照れ隠しの仕方で損をしているんだろうな、と思うと小さく笑いが漏れた。


「ユフィー!またねぇー!!!」

私は、早足でここから去っていくユフィに聞こえるように大声で叫んだ。
きっと後頭部のあたりでウロウロしているあの腕は、手を振ろうか振らまいか悩んだ結果だろう。


可愛らしい忍者と出会った、心が温まるような2日間だった。







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