FF夢


 3-03






 [ν]εγλ‐0007年 03月22日 天気・小雨

 ゴンガガエリアに入りました。多分もうすぐ村が見えるはずだけど・・・
 ここらへんは鬱蒼とした森が続いていて、ちょっと気が滅入ります。
 流石と言うか、ささみは元気に活き活き歩いています。
 その元気、少し分けてほしい・・・



立ったまま、ささみの背中を机にしてペンを走らせる。
一通り書き終わり、荷物を持って歩きだす。
流石に獣道しかない森の中をバイクで疾走するワケにもいかず、愛車のデイトナは今や手押し車だ。

しばらく歩くと、少し開けた場所に出た。
風も通っているところだし、少し休憩しようか。とささみに言うと、ささみも元気よく「クエッ!」と鳴く。
木の根元に荷物を下ろし、ぐぐっと伸びをする。一息深呼吸をして、息を吐き終わった瞬間に、背後の草むらが音を立てて揺れた。

ガサガサッ!という音に、ささみが警戒してそちらを向く。私も腰にある剣の柄を掴んで、未だ揺れている草陰をじっと見つめる。


バッサァ、とひときわ喧しい音を立てて現れたそれは、まさかの女の子だった。

「そこのアンタ!私と一発勝負しな!賭け金はアンタが持ってるマテリアだー!」
「うわー、忍者!」

元気いっぱいなショートヘアーの女の子。そう、彼女はユフィ・キサラギだった。




***


ユフィside


世界を旅するマテリアハンターのアタシは、ゴンガガらへんの森を歩いてた。
別に迷ってたワケじゃないよ!こっちからお宝の気配がしたんだって。

その勘はまさに的中。黒いチョコボと、アタシより年上なカンジの女が同じ森の中をウロウロしてた。
ここらへんの道に慣れて無いカンジだったし、多分旅人だね。

アタシの鋭い目は、女の武器、装備を素早くチェックする。
あの女、結構いいマテリア持ってるみたい。それにでっかいバイクも持ってる・・・ってことは結構金持ち?
すっごく油断してるようだから、文字通り"忍び足"でその女に近づく。
まぁ、アタシが本気出せば誰も気づけないよな。

でも、不運にも足元にでっかい枝が落ちていて、アタシはその場でこけてしまった。
姿を隠すための草むらも、踏み込めば大きい音が立つわけで。
ガッサガサ音がなれば、まぁ、コッチ向くよね、普通は。

女とチョコボは、鋭い目でコッチを見つめている。
チョコボは身をかがめて、いつでも飛びかかれるようにスタンバッてるし、女の方は剣を握って、すぐ振れるように息を整えている。
こうなったらコッソリも何もないかと思って、アタシはその場から飛び出した。


「そこのアンタ!私と一発勝負しな!賭け金はアンタが持ってるマテリアだー!」
「うわー、忍者!」

女は驚いたのか、剣を握る力が少し緩んだみたいだった。
その隙をついたアタシは、女のショルダーバッグを狙って手裏剣を投げる。
我ながら良いコースで飛んで行った手裏剣を、女は鞘に入ったままの剣を振って弾く。

ギンッ、と鈍い音を立てて、アタシの1mくらい先に手裏剣が落ちた。
睨みあって動きを止めるわけにいかないから、手裏剣にすぐ飛びつく。
意外にも女は後ろに飛んで距離を取っただけで、襲いかかって来る様子が無い。


アタシの俊足、見てろよ!
心の中でそう呟いてから、両足に力を込めて女の前までジャンプする。
怯んだ女の前に着地して、手に持った手裏剣を振りかぶる。
そんなに深く傷つけるつもりじゃないけど、マテリア盗ってけるくらいには怪我させなきゃ。
頭でぼんやり考え事をしながら手裏剣を振り下ろす。いや、振り下ろそうと"した"。

アタシの手裏剣が女に触れる前に、女のブーツがアタシの懐に入って来る。

ヤバイ、蹴られる。
そう思った瞬間に、脇腹にスゴイ衝撃が走った。
痛くて、息が詰まって、どうにもできずにその場にしゃがみ込む。

嘘だろ・・・この女、強い。


ざくざくと、土を踏みならしながらこっちに近づいて来る女。
ああ、アタシ、トドメ刺されンのかな。痛いのはやだなぁ・・・

ヒュン、と剣を振るう音が聞こえて、思わず目をギュッとつぶる。
どっちにしろ俯いてたから女の顔も格好も見えないけど、剣先が見えるのはヤダ。
来るであろう衝撃を待っていたけど、剣先はアタシを狙ったんじゃなかった。

ギンッ!とさっき響いた音がまた聞こえる。
あたしの足元に突き刺さっていた手裏剣が弾かれて、今度は結構遠くに飛んで行ってしまった。

女は剣を腰に収めてから、アタシの前にしゃがんで顔を覗き込んできた。


「大丈夫?痛かったでしょ、ごめんね」
「・・・別にへーき。そこまで痛くないよ」

ウソ。めちゃくちゃお腹痛い。
お腹はズッキンズッキンするし、擦り剥いた膝もヒリヒリ熱い。自分の格好悪さに、すこし泣けて来る。

「もう攻撃してこないでね」
「・・・もう一回」
「ん?」

きょとん、とする女に声をかける。

「もう一回勝負!しょーぶ!!」

少し痛みがマシになってきたお腹に力をこめて、今度はハッキリ言う。
でも女は、意地悪そーに笑って「やーだ」とだけ言った。


近くでよく見ると、その女は結構綺麗な部類の女だった。

黒い髪の毛はつやつやしてて、それを一つに括ってる。
色白で、細身で、でもおっぱいは小さくなくて、きっちりきれいな服を着てる。
顔だってブスじゃないし垢抜けてるし、今みたいに笑ってれば、アタシでも可愛いと思う。
ミッドガルにいるモデルみたいだなー、って思わずみとれてしまった。

それが何だか悔しくて、アタシも意地悪な笑い方で女に言い返した。


「ははーん?さてはアタシの手ごわさにビビっちゃったな?」
「あー、うん、そうそう、ワタシビビッチャッタナー」
「何だよその言い方!むっかつくー!」

心底そう思ってなさそうな声で、女が言う。
くっそー、むかつくけど負けたアタシは何とか言える立場じゃないんだよね。


「フン、まあいいや。今日のところはアンタの勝ちにしといてあげるよ」

そう言い残して立ち去ろうとすると、何を思ったのか女が声をかけて来た。

「あ、待ってよー」

振り向くと、女がこっちを見てる。
ううん、これはもう【なかまに なりたそうに こちらをみている!】ってくらいの眼差しだね。

アタシはここでひらめいた。
この女、結構強いんだったら仲間にしちゃえばよくない?って。
さっすがアタシ!冴えてる!って自分で褒めたくなっちゃうくらい良い作戦だよね!

思い立ったら即実行!女にちょっとだけ話しかけてみる。


「なんだよー、アタシ忙しいんだから用件なら早くしてよね」
「んー、特に用ってわけじゃないんだけど・・・忙しいんだったらいいよ」

オイ!何でそこで引いちゃうワケ?
アタシも忙しいって言った手前、引き返せないじゃん!!


「あっそ!んじゃーアタシ行くからね、バイバーイ・・・・・・ね、ホントに行っちゃうからね。ホントだからね!」

(あ、ユフィのこれ、ただの天邪鬼か)
「待ってよー。折角出会ったんだからもう少し親交を深めようよ」

女がやっとこさアタシが待ってた言葉を吐く。一時はどーなる事かと・・・


「え?なに?アタシの強さに惚れ込んじゃったから、助けてほしいって?」
「と、いうよりはもっと仲良くなりたいなー、なんて」
「ふぅーん?まぁ、別に嫌ってワケじゃないけどさ。どうしよっかなー?でもさぁ、アタシも暇じゃないっていうか、ぶっちゃけ忙しいんだよねー」

これで「お願い!私と一緒に来て!なんでも言う事聞くから!」とか
言ってくれちゃったら助かるんだけど!だけど・・・

「そっか・・・じゃあ残念だけどバイバイしなきゃ・・・じゃあねー」

女はビックリするくらいあっけなく歩きだした。


「あれ?ちょ、ちょっとちょっと!待ってよー!ねぇ!待ってってばー!」

もう!なんなんだよー!これが俗に言う"つんでれ"ってやつ?思わせぶりな態度ばっかとりやがってー!

アタシはとりあえず、貴重なマテリアを逃がす訳にもいかないので、その女の後を走って追いかけた。




***




森で出会った忍者、ユフィはどうやら道に迷っていたらしく、ゴンガガ村を発見し現在位置がわかると、すぐにその姿をくらました。

別にいいんだけど、もうちょっと仲良くなりたかったなー、なんて。
私は宿をとるために村の中へ、ささみは食事をするために森の中へと入っていった。


バイクを入り口付近の目立たないところに停めて、村の奥に進み、宿屋のドアを開けようとノブに手をかける。
ガチャリ、と開くはずのそれは何故か"ガッ"という音しかしない。

「ん?ドアノブ、壊れてる?」
「こらこらお嬢ちゃん、イタズラしちゃいけないよ」

ドアの前で首をかしげていると、後ろから声が聞こえた。
振り向くとそこには、優しそうな顔をしたおばさん?おばあさん?が立っていた。


「あ、ごめんなさい」
「あら・・・あなた旅人さん?ごめんなさいねえ、てっきり忍び込もうとしてたのかと・・・この宿屋ね、ご主人が怪我をしてしまって・・・今はやってないのよ」
「え!?」

おばさんから告げられたその言葉。
この村唯一の宿屋が使用不可となると、今日もささみと一緒に野宿ルートになるだろうか。
しかたない、と息を吐いてからおばさんに「教えてくださってありがとうございます」とあいさつをする。
できるだけにこやかに、まるで礼節を重んじる良い娘のように。

そのまま踵を返して歩き出す。
すると、背後から再び心配するような声がかかった。


「ちょっと待って、あなた、寝る場所はあるの?」
「野宿です!」
「まぁ・・・大変でしょうに。ウチで良ければ一晩泊まっていくといいわ」

きた!!!

そう、私は打算的でちょっとずる賢い系の女子。
こういう優しそうなおばさんは年若い娘をほったらかしにはできないだろう、というせこい読みが的中した。


「わぁ、いいんですか?とってもありがたいんですけど、迷惑じゃないですか?」
「迷惑だったら最初から言わないわ。こっちよ」

にこ、と少し皺のある顔を笑顔にかえるおばさん。ああ・・・すごくいい人だ・・・良心が痛む!
そんなおばさんの後ろに着いていき、私は今日の宿屋をバッチリゲットした。







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