FF夢


 3-02






 [ν]εγλ‐0007年 03月10日 天気・曇り

 ニブルヘイムでハーディ=デイトナを回収したあと、コスモキャニオンに立ち寄りました。
 バイクがあると、ささみと同じスピードで走れるから感動ものです。
 ブーゲンハーゲン様は元気かな・・・




私を取り巻くのは、以前通った赤い大地。
空気は乾いていて、燃えるような陽の光が大地全体を照らしている。
前来た時と変わらぬその風景に、ほっと安堵の息が漏れた。


近くにデイトナを停めて、岩肌を登る。
門番のお兄さんは私の事を覚えてくれていたようで、優しく笑顔を浮かべてくれた。


「おや、お久しぶりですね。旅のお方。今日はお一人ですか?」
「はい。近くに野暮用があって」
「そうですか。どうぞ疲れを癒してお行き下さい。星の御加護を」

村の中心には、あの時と同じように眩しい炎が燃え盛っている。
コスモキャンドル。そこへ歩み寄ると、先客がいるのに気がついた。

赤い毛並み、柔らかな炎が灯った尻尾。ネイティブアメリカンのような装飾品や入れ墨で飾っているその身体。


(ナナキだ・・・)

その後ろで一度立ち止まる。
地面を踏みしめる音がジャリ、と響き、ナナキがこちらを向く。その表情は未だ素のもので、あどけなさが垣間見えている。

「こんにちは、君はここに住んでるの?」
「えっ?オイラに言ってる?」

ナナキは、初対面の人間が自分に話しかけて来た事に驚いたようで、目を見開いて聞き返した。

「うん。奈々です、よろしく」
「オイラはナナキ!奈々が言った通りここに住んでるんだ。よろしく」
「ナナキね」


確か、ナナキが神羅に捕縛されるのは0006年の10月末の事なのだが、それから半年経った今でも彼はここに居る。
やはり、時系列に若干のズレが生じているみたいだ。

突然考え込んだ私を不審に思ったのか、ナナキが首を捻る。

「奈々?どうかした?」
「ん?あ、いやぁ、考えてみれば、4本足で立つ男の子と喋るのは初めてだなーって」
「今更だよ、それ」

軽い冗談でごまかしてみると、素直に乗っかってくれるナナキ。
レッド13ではなくナナキ本人として出会った彼は、子供っぽい純粋さがあった。

隣に腰かけると、特に嫌がる素振りも無かったので、彼と同じようにコスモキャンドルを見つめる。
すぐ背後では、彼の尻尾がぱたぱた動く気配がする。


「ねー、ナナキ。ふわふわそうだね、撫でてもいい?」
「いいよ。毛は抜かないでね」
「うん!」

おすわりの体勢からその場に伏せたナナキは、上目遣いでこちらを見上げる。
最初は掌で優しく撫でる。
見た目ほど硬くなく、もしょっとした触り心地の毛は案外クセになるもので。
思わず首元にぎゅっと抱きついてしまった。

「くすぐったいよー」
「えへへ、ナナキあったかい」

思えば、こうやってスキンシップを取るのは随分久しぶりの事だ。
抱きつける存在と言えばささみくらいだが、勿論彼女は喋れない。
ザックスと別れて以来、人間とコミュニケーションを取らなかった訳ではなかったが、所詮は"他人"で心を許せる相手はいなかった。

甘えるように首筋に擦り寄ると、ナナキも鼻先をこちらに向けて大人しく胸の中におさまってくれている。
それを良い事にしばらく動かないでいると、ふいにナナキが口を開いた。

「あれ?奈々、寒いの?震えてるよ」
「え?そんなこと・・・」

自分の指先を見ると、確かに小刻みに震えていた。自身でも気付かない程度の震えだったようだ。
両の手を握りしめて、深呼吸をする。コスモキャニオンの乾いた空気が、やけに寂しく思えてしまう。

「んー・・・久しぶりにほっとしたから、かなぁ」
「一人旅って、怖い?」

不安げに問いかけるナナキ。
今の彼には一人旅をする計画でもあるのだろうか。
その不安を拭えるように、出来る限り優しく笑う。

「怖くないよ」
「オイラ、どうしても"何かあったらどうしよう"って思っちゃうんだ」
「何かあっても、落ち着いて周りを観察する。それだけできれば結構いけちゃうよ」

正直、私も考える事しかできないから。
何もかも覆せるような力量があったらいいのに、なんて、この世界に来て何度も考えた事だ。


「あ、でも寂しい、かな。今まではお日様みたいな人と一緒だったから。一人に慣れたハズだったけど、やっぱり寂しい」

ホームシックにかかってしまった時の事を思い出す。
未だにザックスに会いたくてしょうがないし。
でも、シドやナナキのような新しい出会いが、それを忘れさせてくれる。旅の醍醐味ってヤツかな、と思うと少し照れくさい。

ナナキも、穏やかに笑って言ってくれた。

「寂しかったらオイラにくっつけばいいよ。ちゃんと奈々の話、聞いてあげられるし奈々よりもオイラの方が温かいから」
「ありがとう、ナナキは優しいね」
「ううん。その代わり、オイラが寂しくなったら奈々にくっつきに行ってもいい?」
「勿論!いつでも大歓迎だよ!」

断るなんてとんでもない!と叫んでしまいたいくらいに可愛い。
照れ笑いの表情もきゅーんとくるものがある。

「へへへ・・・」
「ナナキー!」

地面に座り込んだままじゃれ合っていると、後ろから楽しげな笑い声が聞こえた。
ナナキと一緒に振りかえると、そこにはブーゲンハーゲン様の姿が。

「あー!お久しぶりです、ブーゲンハーゲン様!」
「誰かと思うたら・・・奈々だったか。相変わらず元気そうじゃな」
「はい、お陰さまで」
「ふむ・・・・あやつらも大事ないか」
「2人とも相変わらず、です」
「そうか。それは良かったのう」

うんうん、と頷いて微笑むブーゲンハーゲン様。
隣ではナナキが怪訝そうな表情で2人を交互に見ている。

「じっちゃんと奈々は知り合い?」
「ちょっと前にね、一度ここに来た事があるの。その時にね」
「へえぇ・・・そうだったんだ」

ナナキは納得したようで、嬉しそうに目を細めた。
その表情が可愛かったので、また首に抱きつくとこちらに体重をかけてくる。

「もう一度コスモキャニオンに来て良かったよ。ナナキに会えたし!」
「オイラも。奈々が来てくれて嬉しいよ」
「ホウホウ、この短時間で随分仲良くなったのう」
「「へへ!」」


今度は2人で顔を見合わせてから、返事をする。

ナナキと仲良くなれるなんて思わなかっただけ、喜びも大きかった。






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