FF夢


 3-01





 [ν]εγλ‐0007年 02月15日 天気・晴れ

 ここに来て4日が経ちました。
 穏やかに毎日を過ごすのは本当に久しぶりで、なんだか精神面が癒されます。
 ザックスも同じみたいで、日に日に笑顔が明るくなっているみたい。
 クラウドは相変わらずのスルースキルです。でも、時々顔を上げてくれたり
 前よりもリアクションが大きくなっている、ような、いないような・・・
 良い方向に向かっていると思います。




久しぶりに日記を書いて、新しいペンとボロけた日記帳を鞄に仕舞う。

アイシクルロッジでの生活は、平穏そのものだった。
お昼頃にベッドから出て、ご飯を食べてから日中はザックスと一緒にモンスターと戦ったり、クジャとささみと一緒にチョコボの友達作りを手伝ったり。
夜はロビーにいるダリアさんと雑談を交わす。

このまま本篇が始まる時期までこの場所にいてもいいかな、と思ったけど気がかりな事が一つあった。


ニブルヘイム付近に置きっ放しの、ハーディ=デイトナだ。
本篇開始までには、クラウドを連れて2人でミッドガルに向かうつもりなのだが、その際にチョコボよりもバイクの方が理想的だったりする。
この世界のチョコボは基本一人用。チョコボ車になるとまた別なのだが、背中の面積があまり広く無い。

それに私とクラウド、それから重たい荷物を乗せて、尚且つ延々同じスピードで走れるのはバイクの方。
やっぱり、物語が始まるまでに手元に置いておきたい。

そう決めた私は、ザックスとクラウドをここに残して一人で来た道を戻る事にした。
ザックスは最初こそ反対したが、私のやるべき事だというのを理解してくれていたのか、渋い表情で了承してくれた。

その際ザックスに、2人分のカラーコンタクトを渡しておいた。
それをつけた2人は瞳が黒く、なんの変哲もない、只の格好良いお兄さん。

多分、私が把握できてない部分のストーリーは私と言う足手まといがいない方がスムーズに切り抜けられるだろう。
私もギリギリまで悩んだが、本篇のストーリーを滞りなく始めるために、バイクを取りに戻る事を決めた。

そして今日が、その出発の日だった。



「とりあえずここに居れば安全だと思うけど、警戒は怠らないでね。それから神羅の制服は目立つから着ちゃ駄目。カラコンも必ず入れとくこと。少しでも危険があったらすぐにクジャと一緒に山の中に逃げてね」

口うるさい母親のように捲し立てると、ザックスは笑いながら私の肩を撫でた。

「落ち着け、大丈夫だって。俺もクラウドも捕まるわけにはいかねーからな」

落ち着き払ったその声に、私も口を閉じる。
だが言い忘れた事を思い出し、再びザックスに向かって言う。

「それから、毎日とは言わないけどちゃんと連絡ちょうだい!」
「わかってるわかってる。携帯は使えねーから、宿の電話から連絡するな」

今度こそ口を閉じて頷き、ザックスとクジャから一歩離れる。
私の隣にはささみ。この子は私と一緒に来てくれるようで、朝から今まで私の隣を離れなかった。

あまり長居をすると、出発し辛くなってしまうので別れの言葉もほどほどにして、私はアイシクルロッジを後にした。


「行ってくるね!」
「気をつけろよ!」




***




何日もかけて進んだ道を引き返すというのは、なんとも言えない空しさがある。
3人で行動していた時よりも速度は早い。が、その分消耗も早い。
バトルで頼れる人はいないし、躓いて転んだ時に助け起こしてくれる腕も無い。

今更ながら、私は随分ザックスに依存してたんだなぁと実感させられる。



アイシクルロッジを出てから数日間は必死だったので、何も考える余裕が無かったから良いが、一人旅に慣れ始めた頃が、一番の葛藤の時期だった。

世間一般的な呼び名だと"ホームシック"というのが一番正しいだろう。
ザックスがいて、クラウドがいて、クジャとささみがくっついている。
そんな光景が当たり前になってしまっていた。

寂しくて、一人でめそめそ泣いてしまった時もあったけど、とりあえず、今はそれも落ち着いた。



私は今、ノースコレルエリアを越えてロケットポートエリアに入った。
きっと、アイシクルエリアから遠ざかった事で諦めがついたんだろう。
早く取りに行って、早く帰ろう。
何度も言い聞かせて、ニブルヘイムへと急いだ。


ロケットポートエリアに入ると、すぐにロケット村に到着した。
ザックスと一緒だった時も立ち寄りさえしたが、神羅の関係者だらけのこの場所に長居など出来るはずもなく、数時間の休憩ののち、すぐに出発したのだった。
だから、じっくり村の中を見て回るのはこれが初めてだった。



 [ν]εγλ‐0007年 02月26日 天気・晴れ

 ロケット村に到着しました。
 少しここで休息を取って、心境を落ち着かせます。
 ザックスとクラウドに会いたくて、今すぐに引き返したいけど
 一人にも慣れなくちゃ。
 今日は快晴で、真っ青な空にロケットが綺麗に映えています。
 艇長に会えたらラッキーだなぁ・・・




宿屋の寝室から出て、一階の飲食スペースで食事を取る。

美味しい定食に、沈んだ気持ちが少し浮上する。
一人で食べるご飯に慣れないうちは、何を食べても美味しく感じなかったが、今では普通に食事の時間がささやかな楽しみになりつつある。
人間、時間さえあればいくらでも慣れるんだなぁ。

食後のお茶を飲んでいると、内ポケットに入ったままの携帯が震えた。
震えはすぐに収まったので、きっとメールだろう。
パカリと開いて確認すると知らないアドレスからメールが届いていた。

メールの文章は妙に長く、一瞬何事かと思ったが、文を追って行くうちに自然と笑顔が浮かんできた。


【よっ!元気か?寂しくて塞ぎこんでないよな?
 俺とクラウドは相変わらずだ。クジャもな。
 宿屋のダリアちゃんに携帯借りてさ、メール
 させてもらった!電話だと中々話してらんないだろ?
 奈々がいなくなって暇になるなーって思ってた
 けど、案外そうでもなかったぜ!
 毎日訓練したり、ロッジの人と喋ったり
 クジャの嫁さん探しに行ったり、時々ダリアちゃんに
 クラウド頼んで氷河の方に行ってみたりさ。
 こっちのモンスター、結構強いのな!
 モデオヘイムのあたりはそうでもなかったけど
 山越えた辺りはすっげえ強い!俺もまだまだだな!
 そういや、大氷河のあたりで変わったモンスターに
 会ったんだけどよ、奈々が「新しいモンスターを
 発見した時は必ず盗む!」って言ってたから
 俺も盗んでみたらさ、サークレット持ってたんだ!
 あれ、奈々が欲しがってた装備だろ?
 とっておくからさ、帰ってきたら渡すな!
 奈々が帰って来るまでに俺、更に強くなっとくから
 期待しとけよ!じゃあまたメールするから!】


随分読み応えのあるメールだが、ザックスの勢いがそのまま文章になっていた。
何度も読み返して、そのメールに保護をかけてから携帯を閉じる。

どかっ、と隣の席から音がする。
突然の人の気配にそちらを向くと、金髪にブルーグレーの上着。
無精ひげを生やした口元には、くにゃりと折れ曲がった煙草が咥えられている。

(シドだ!!!!!)


「おーい親父!スタミナ定食!!」

隣で叫びださなかった私を褒めてほしい。
あのFF7随一のナイスミドル、シドが私の隣に座っていた。
一見不機嫌そうな眉間の皺だが、定食屋のおじさんと雑談を交わしている所を見ると、特に機嫌が悪いわけでもないらしい。

誤解されがちな人なんだろうなぁ・・・

食事を終えたものの、せっかく隣にシドが座っているのに、この席を立ってしまうのが勿体なく感じて、近くに来たおばさんに声をかけた。


「すいませーん、杏仁豆腐くださーい」




***




「んー?お前ぇ・・・」

隣の存在感に内心ソワソワしながら食後のデザートを待っていると、何故だか隣の彼から声を掛けられた。


「は、はい?」
「見ねえ顔だな。旅のモンか?」
「ええ。昨日の夜にここへ到着して・・・」
「ほぉー。このご時世に嬢ちゃんみたいなのが一人旅たぁ・・・危なくねえか?」

なんだか世間話の流れに入っちゃったぞ、と思いつつ結構嬉しい展開だったりする。
堂々とシドの方を向き、受け答えをする。

「これでも戦えるよ?」

拳を握ってそう言うと、シドは楽しげに声を上げて笑った。

「はっは!そりゃ良い!嬢ちゃんみてえに鼻っ柱の強ぇ女は嫌いじゃねーぜ」
「わ、光栄だなぁ」
「おう、名前はなんてーんだ?」
「奈々、ミッドガルからここまで来たの」
「はぁー・・・やっぱ都会の女はやる事がダイタンだねェ。こんな村じゃあシミったれた婆さんしか居ねえからよ」

案の定、今のシドはシエラさんとわだかまりがあるようで、彼女の事を話題に出そうとしない。
次の言葉を待っていると、私の目の前に注文していた杏仁豆腐が置かれた。
桃が添えてあるのが少し嬉しい。


「俺はシド・ハイウインドだ。みぃんな艇長って呼ぶけどな。この村のど真ん中に突っ立ってるロケットのパイロットだぜ」
「へえ、あのロケットの?」(まぁ、知ってるけど)
「おうよ!神羅26号っつってな・・・宇宙開発が盛んだった頃に造られたヤツだ。んで、艇長のオレ様に敬意を表した神羅さんは、後から高速飛空挺を造った時にオレ様の名前を付けてくれやがってよ!」

得意げに話すシドは、まるで少年のように楽しげで、ボーンビレッジに来た時のザックスと少し似ていた。

「あ、知ってる。飛空挺ハイウインドだよね」
「おっ、知ってるたァ流石だな!」
「一度でいいから乗ってみないなぁ・・・って思ってるの」
「オレ様が操縦する時にでも乗せてやらぁ」
「うわあ!本当に?」

おそらくは遠く無い未来、その状況が訪れるだろう。
そのためにも、カギとなるのが移動手段のハーディ=デイトナだ。
ザックスのメールから始まり、シドとの出会い、何気ない世間話、全てが私のモチベーションを高める要素だ。

彼らと出会う前に戻ったと考えれば良い。
ミッドガルで、一人目覚めた時は寂しく無かったはず。
毎日必死に戦って、交友関係を築いて、自力で人脈を広げた。それが、今出来ない訳が無い。

先ずは、目の前でスタミナ定職をかっ込むシドと仲良くなろう。
そう思った私は、脳内で彼が好みそうな話題を探し始めた。






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