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「姫姉ぇ!!」
「久しぶり!姫〜」
「パティ、カロルくん久しぶり!あれ…こんにちは…?」
「こんにちは、初めまして」


文化祭2日目。学園の門の前でパティたちが来るのを待っていると、元気いっぱいに駆け寄って来たパティとカロルくんの後ろに見知らぬ女性が立っていた。
2人と一緒に来るということは施設の人だろうと察して、軽く挨拶をする
ってきりおばさんが来るものだと思っていたら、パティ曰く今日はおばぁはぎっくり腰で留守番じゃ!と困った様に笑っていた。
まずはエステルとレイヴンに会いに行くのじゃ!と我が物顔で学園を走り回るパティをカロルくんが焦った様子で止めている。
付き添いで来ている女性はおばさんの一人娘、名前はミキコさんというらしい。丁度私が施設から出た後におばさんの手伝いとして施設を出入りする様になったとのこと
母から話は良く聞いていますよ。と微笑む顔がどことなくおばさんに似ていて初対面な筈なのに居心地の良さをなんとなく感じた。
駆け回るパティを止めるのはカロルくんに任せているようで、ミキコさんは見た目の若さや、私よりも少し高い身長の割には歩幅も小さめで歩くのはなんだかゆっくりだ。

「レイヴンはおらんのかの?」
「え…?レイヴン、先生のことかな?え、なにこの子先生の隠し子!?」
「マイコちゃん!ちがうちがう!!!」
「あ、姫!もしかしてこの子がパティちゃん?」
「のじゃ!してマイコ姉ぇ。レイヴンとエステルはどこにおるんじゃ?」
「ま、マイコ姉ぇ…!丁度今から休憩の時間帯だからもうすぐ出てくると思うよ」

マイコ姉ぇと呼ばれて感激しているのかマイコちゃんはいい子だねぇ!とパティの頭を撫で回している。
人見知りをしないパティは子供扱いはやめるのじゃ!と言いつつ満更でもないのかマイコちゃんにされるがままだ
薄気味悪い音楽や効果音、たまに聞こえる叫び声にカロルくんはビクビクと震えながら私の腰の辺りを掴んでいる。
相変わらず恐がりなカロルくんは多分今、パティがお化け屋敷に入る!なんて言ったら即倒してしまうんじゃないだろうか
ガラリと出口の方のドアが開いて、あー!怖かった!と言いながら休憩前最後のお客さんが出て来た
入り口の方から一仕事終えて清々しい表情のエステルが出て来て、パティに声をかけている。
エステルは特にフェイスペイントをしているワケでもなかったのでお化けエステルが見れると思っていたパティは残念そうだったけれど私の影に隠れたカロルくんは一安心していた
そして今度はカロルくんのすぐ近くの出口の扉がゆっくりと開いて、ギギギと音がしそうなくらいゆっくりカロルくんが振り向いた、途端叫んだ

「ギャーーーお化けーーー!!!!!!」
「カ、カロルくん落ち着いて!」
「姫…!あ、あああ安心して!ボクが守って…」
「少年、腰が引けてるぞぉ」
「ギャーーーー!喋ったあああ」
「姫ちゃん、一体どうなってるの…」
「先生、すみません…カロルくん、この人私の先生だから…パティが言ってたレイヴン先生」
「おお!レイヴン!サマになっとるのう」
「はは、そりゃどーも。パティちゃん」
「な、なぁんだ!ま、まぁボクもそうじゃないかって思ってたけど…ね!?」
「少年…」
「ギャーーー!!!」


未だに恐がっている様子のカロルくんが面白いのか、からかうようにレイヴンはのそのそと近づいて低めの声でカロルくんに触れた。
私の服を引っ張りながら逃げるカロルくんをなんとか落ち着かせて、みんなで休憩がてら一緒に回ることにした。
レイヴンは血のりでドロドロだった顔を拭き取ったことでやっとカロルくんは落ち着いてくれて、私はほっと一安心だ。
2人と合流出来たことに満足したパティの次の目的地はやはりユーリ先輩たちのいる3年A組
子供2人にその保護者、私にエステル、ボロボロ白衣の教師・レイヴンという異様なパーティ編成で私たちはゾロゾロと歩いているので少し目立っている
学園に来たのは2回目なはずのパティは持ち前の行動力からズンズンと突き進んで先輩たちのクラスへとやってきた。
相変わらず長蛇の列のユーリ先輩たちのクラス
私もユーリ先輩もあと数時間後には午後の部では大目玉企画となっているミスミスターコンの準備に向かわなくては行けないし、このまま並んでいても大丈夫なんだろうか
列の最後尾についていると、パティが列から外れて入り口の方へと歩いて行ってしまった

「あ、パティ!並ばないとダメだよ?」
「ふっふっふっ…こんなこともあろうかとユーリには連絡しておいたのじゃ!」
「連絡って…文化祭なんだから予約なんて出来る筈ないでしょ!ちゃんとみんなみたいに並ぼう?」
「でもユーリはいいって言ったのじゃ!」
「…ったく騒がしいと思って出て来てみればお前らか」
「あ、先輩」
「ユーリ!!久しぶりじゃのぅ!会いたかったのじゃぁ!!」
「ああ、久しぶりだな。席空けといてるぞ、何人だ?」
「うちはユーリと2人っきりがいいんじゃが…6人なんじゃがいいかの?」
「ま、なんとかなんだろ」

一体どんな手段をユーリ先輩とパティが使ったのかは定かじゃないけれど、順番待ちをしているお客さんに特に睨まれることもなく私たちはなかへと通された。
お帰りなさいませ、お嬢様。とフレン先輩やほかの男の先輩たちからも言わながら席につく

「ユーリ先輩は何も言わないんですか?」
「ん?言って欲しいのか?姫お嬢様」
「…そんなぶっきらぼうな執事はいません!!」
「へーへー悪かったな」
「フレンがサマになりすぎてるのじゃ」
「そ、そうかな?」
「本当に嬢ちゃんと一緒にいるだけあるわな」
「でも、ユーリが一番じゃ!」

うんうんと周りに座っている女性客のみなさんが頷いているような気がした。
先輩安定のチートですね…
パティと一緒にメニューと睨めっこをしているとレイヴンがなにかを先輩に耳打ちして、先輩は膝掛けを一枚手に持ってやってきた。
レイヴンはそれを受け取るとミキコさんに手渡した

「お気遣いすみません…」
「いやいや、学校の椅子堅いでしょう。身体に障ると良くないんでね」
「…?」
「…ん?姫ちゃんも欲しかった?」
「い、いえ!私は大丈夫です…?」

ミキコさんは膝掛けを椅子の上に敷き直してまた座り直した。
レイヴンとミキコさんは至ってここに来るまで会話は対してしていないし、初対面の筈なのだが
知り合い…?極度の冷え性?私にはレイヴンの気遣いは検討が着かず、なんだか少しモヤッとした。
執事姿のユーリ先輩を堪能したパティとカロルくんはまだまだ遊び足りないらしく、パタパタと校内を駆け回っていた。

「うーんボク喉乾いちゃったなぁ」
「うちもちと乾いたなぁ」
「あら、じゃあ飲み物買いに行きましょうか…あっ!」
「…おっと!」

ミキコさんがパティたちを追いかけて階段を降りようとしたところで足を滑らせて落ちそうになり声をあげた
後ろで見ていた私は一瞬の出来事で何も出来なかった。けれど階段から落ちそうになる寸前でレイヴンが咄嗟に腕を伸ばしてミキコさんを抱きかかえるように支えた。
間一髪…と声を漏らしながらしっかりミキコさん支えるレイヴン
少し頬を赤らめたミキコさんがレイヴンに礼を言っている
転ばなくて良かったと頭をかきながらレイヴンは笑っていて、少し休憩しようかと提案をされた
丁度すぐそこが中庭で、レイヴンはミキコさんの腕をそのまま引いてベンチに座らせた
そしてレイヴンは自分が羽織っていた白衣をミキコさんの肩にかけて、パティとカロルくんを連れてどこかに行ってしまった。
この一連の流れを私はただ傍観していた
私の恋人の筈のレイヴンはなんだかミキコさんにやたらと気遣いをしているように見える。
実は2人は元々知り合いで、お付き合いしていました。なんていう事実かもわからない関係性が私の頭の中でグルグルと回って歩いていた足が止まった。

「姫…?どうかしましたか…?」
「え…?」
「先生たちの所に行かないんですか?なんだか顔色が悪いです」
「あ、大丈夫だよ。行こっか」

心配そうに顔を覗き込むエステルに愛想笑いをした
飲み物を抱えて戻って来たレイヴンたちはミキコさんに飲み物を渡していた
笑うレイヴン、レイヴンに向かって微笑むミキコさんと楽しそうなパティとカロルくん
姫姉ぇ、エステルも早く来るのじゃ!とパティが手を振っていて、そこにいる4人が家族にまで見えて来て胸がキュッとしまった。



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