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*後半ちょっと注意






楽しみだったような、そうではなかったような?
そんな文化祭1日目が幕を開けた。


「お化け屋敷2年B組でやってまーす!」
「可愛いギャルお化けもいますよ〜」


私とマイコちゃんは昇降口のあたりで簡易の看板を持って来訪者に声をかけ回っている。
もちろん目を引く様にマイコちゃんはギャルならではのビリビリのTシャツにショートパンツ、血のりやらでボディペイントもばっちりだ。
私はというとわざと汚してボロボロにしたコスプレ用のセーラー服で頭や腕に赤いペンキで淡く染めた包帯をグルグルと巻き付けている。
昇降口でまずそんな私たちがいるものだから、いろんな人から視線を感じる。
可愛いギャルお化けだって〜あの子たちみたいなのいるのかな?後で行ってみようぜ!と他校の学生であろう男の子たちが笑いながら通りすぎて行ったけれど、今のところ嘘の情報である。
学校の教室でやっていることもあって廃校がコンセプトではあるけど、典型的な日本のお化けどころかゾンビなんかもいるなんでもアリなお化け屋敷でメインの脅かし役のほとんどはクラスの男子たちだ。
私やエステル、マイコちゃんは脅かし役でなかに入るパターンもあるけれど、基本女子は受付か足下で手を伸ばしてみたり、ベタだけどこんにゃくを垂らしてみたり、効果音専門な子が多い
あ、マイコちゃんが1人だけ渾身のギャルを作り上げたんだっけ?柔道部の通称ゴリラくんだけど…
マイコちゃんの他のクラスの友達が一番乗りでお化け屋敷を体験してくれたのだけど、最後の方で奇抜すぎるゴリラくんと、白衣のゾンビに追いかけられて泣きながら出口から出て来てたっけなぁ。


「あ、姫。そろそろ戻ろ!エステル1人で受け付けやらせちゃってるしね」
「そうだね〜お客さんいるかなぁ〜」


もう秋だって言うのに今日はなかなか暑い。校内を歩き回っていたからか喉が渇いて自販機でエステルの分も飲み物を買ってから教室の方へ戻ることにした。
雰囲気作りなのか、マイコちゃんはトマトジュースのラベルを剥がして怪しい笑みを含みながら飲んでいる。
マイコちゃん、それじゃあ吸血鬼なのかゾンビギャルなのかわかんないよ…
階段を上って廊下を曲がったら教室に着く、というところで長蛇の列が私たちの目に入った
どこの教室への行列だろう?とマイコちゃんと顔を見合わせて小走りで廊下を曲がるとなんとそこは私たちの教室だ。
おどろおどろしいBGMとちょっとした叫び声が聞こえる。
思いの外繁盛しているようで、そこでエステルが1人で受付やってるの大変なのでは!?と私たちは行列の最前列へと急ぐ


「うひゃ〜これは儲かってますなぁ!」
「マイコ!姫ちゃん!!やっと戻って来た…!早く手伝って〜!」
「た、助かりました…」
「先生手伝ってくれてたんですか!?」
「嬢ちゃんだけじゃ捌けないでしょうに!」


エステルに買って来たお茶を手渡して一旦休憩する様に下がらせて私とマイコちゃんで行列を整理しながら入場料を受け取って行く。
出口から出て来た人数分入場させて、恐らくつい先ほど入った男の子たちだろうか。早速野太い叫び声が聞こえた。


△△△

慌ただしく受付作業を終えて、丁度時計が12時を指した頃に一旦お化け屋敷休憩でーす!と並んでいるお客さんたちに呼びかける。
受付でもなかなか骨が折れる人数を捌いた。いい加減休憩しないとなかで脅かしている男子たちが心配になって来た。
お化け屋敷の次の開始時間は14時頃から。急遽レイヴンが整理券を作って来てくれてその時間でもお化け屋敷を体験したいと言う並んでくれていたお客さんに配る
誰もが予想だにしなかった事態である。学園祭のお化け屋敷とは思えないほどに繁盛しているし、終盤でゾンビたちやゴリラくんに追いかけられるスリルが堪らないとリピーターもちらほら…


「お、俺ちょっと疲れた…」
「ご、ゴリラくん!お疲れさま…!」
「ギャルじゃねーじゃん!!って言いながら泣いてる人何人かいたんだけど…高瀬なんでか知ってる?」
「あー…マイコちゃんが…ね…」
「申し訳なさに心労が…」


ゴリラくんは身体は大きいけれどなかなかピュアな所為かお客さんに申し訳なさを感じているらしい
ベランダで体育座りをして落ち込むゴリラくんの隣で飲み物とたこ焼きを手渡して激励してみたけれど、暫くはそっとしておくことにした。
ゴリラくんの負担を軽減しようと午後の部が始まってから暫くは脅かし役に私たちも加わることになった。
ゴリラくんの為に頑張ろうとは思うけれど、心配なのは私の持ち場がゴリラくんと同じで最後のところだからだ。


「私ゴリラくんの変わり出来るのかな…」
「小さい姫で油断させておいて後ろから来るのが大本命だから大丈夫!」
「小さい…」
「だ、大丈夫ですよ!姫は可愛いですから」
「小さくて可愛いってそれお化け屋敷向きじゃない!!」


まあまあ、落ち着いて。とマイコちゃんが私の身長が低いのをいい事に頭をポンポンとしながら子供のように宥めてくる
明日はパティたちも遊びにくることを皆に伝えていて最初だけ手伝って後はフリーになる予定だし、頑張るしかないのだった。
いろんな所を回ってから先輩たちのクラスに遊びに行って見ると、去年私たちもやった執事喫茶をやっていた
こちらもまた大盛況の様で長蛇の列に私たちは入るのは断念することにした(多分明日並ぶことになるし)
あっという間に休憩時間が終わってしまい、午後の部が始まる。

私の役割は緑色のライトの下にポツンと立って『あそぼう』『たすけて』だったりずっと数字を数えていたりするだけなのだけど…
演技力というものが私にはからっきしないのか、いい感じの雰囲気でそれを言える様に練習をマイコちゃん監修のもとやったのは記憶に新しい。
ポツンと1人だけの持ち場はなんだか寂しい。お化け屋敷なのだから当たり前だけど、不気味な効果音と叫び声でちょっとだけ心細いのは確かだ。
近くにある掃除ロッカーに寄りかかって、お客さんそっち行ったよ〜とクラスの子からメッセージが届いた。
午後の部で初めてのお客さんだ。
驚いてくれるか心配でなんだか緊張するけれど、私は緑色のライトの下に立ってスタンバイをする。

「いーち、にーい、さーん…」

近づいてくる足音に合わせて小声で数字を数え始める。
なかなかこわいな〜と呟く声が聞こえて、お客さんが私に近づいて来た。

「あ、もうゴールだ!」
「ろーく、しーち、はーち…」
「これでおしまいなんかな?」
「きゅーう、じゅう…」
「と、通りますよ〜…」

私がすぐ近くで数字を数えているだけで、何もしてこないのが逆に不気味なのかお客さんが恐る恐る私と距離を取りながら目の前を通過して行こうとした瞬間。私は顔を勢いよく上げてニヤリと笑ってみせた。
緑のライトが気味悪さを手伝ってくれたのか、ヒッと喉が鳴る音が聞こえてお客さんの肩をゾンビ役が叩いた。
うわー!!!と叫び声が上がってすぐそこにある出口へと一目散にお客さんが逃げて行って
なんとか初めての脅かし役が成功したらしい
ゾンビ役をしていた木村くんとハイタッチをして次のお客さんに備える。

(やったー!なんとかなりそう!)

小さくて可愛い。なんてさっきはエステルたちに言われたけれどゾンビのお陰もあってでいい感じに私は自信がついてきてその後も何度もお客さんを驚かせることに成功していた。
最初の方は午前と同じく大盛況だったけれど、始まってから数時間たった今は体育館で有志発表が行われていることもあってお客さんの数は少なくなってきていた。
客足が減ったこともあって待機の時間に息抜きがてらゲームなんかもしていた所為で、運悪くそこで携帯の充電が切れてしまった。
バッテリーを持ち合わせてもいないし、近くのコンセントで充電を試みるもブラックアウトした携帯はまだ電源が入らなそうだ
暫くしてお客さんの声が着々と近づいて来ているのが分かって、さっきまではメッセージで予告されていたけれどそれもないので逆にいつくるか変な緊張感が出て来た。
とりあえずライトのところでスタンバイしておこう…

「高校の文化祭の割には結構クオリティー高いな〜」
「だな。ま、俺はそんな怖くないと思うけど?」
「うっそつけ〜さっきこんにゃくに騒いでたじゃん」

暢気な会話が聞こえて来てドキドキしながら近づく足音を待っていると思いの外男の人たちは近かったらしく、なんと今は私の目の前にいた。
逆にそれに驚いてしまって私は勢いよく顔を上げると、息を飲み込んでしまう

「っ!…あ、あそぼぅ?」
「…おぉっ!喋った」
「ちっちゃいな〜」
「あそぼう…?」(しまった〜…)

声が裏返ってしまい、もう一度言い直してみても目の前にいる男の人たちは驚きもせずになんだかニヤニヤとしている。
さっきまではゾンビがこの後に出てくる手筈だったのに一向に出てこない。
木村くん、出番ですよ…!
どうせなら素通りしてそのまま出口へ進んでくれればいいモノを目の前からお客さんが立ち去ってくれない。
慌ててしまって思わず口元を震わせると目の前にいるお客さんはニコニコと笑っている。
どっちが脅かし役なのかわからなくなって来た

「怯えてる?」
「逆に?」
「ちっちゃくて可愛いんだが」

私の頭上で暢気に会話を繰り広げるお客さんに仕方なく出口へ進む様に誘導しようと思ったところで、頭に手が触れた。
目の前にいるお客さんが何故か私を撫でているという謎の状況が急に怖い
声を上げるにも硬直してしまってギュッと目を瞑ったところで、お客さんの背後からドンッとロッカーを叩く音と聞き覚えがあるけれど、途轍もなく低い声が聞こえた。

「その子に…触るな」

目の前のお客さんの肩を鷲掴みする手が見える。不意打ちにお客さんは驚いたのか後ろを振り向くなり慌てて出口へと走り去って行った。

「…だいじょぶ?」
「えっ…?レイ…ヴン…?」

ペタリとその場に座り込んでしまった私に小声で声をかけてきたのは、血のりで傷だらけなメイクを施しているけれど紛れもなくレイヴンだった。
急に気が緩んで不安感がどっと押し寄せて来て思わず目に涙が滲んだ。
少し離れたところで驚く声が聞こえるけれど、何故か目の前にいるレイヴンに私は学校であることを忘れて抱きつく
よしよしと頭を撫でるレイヴンに甘えて縋り付く様にしていると、着々と誰かが近づいてくる音がする。
すると軽々と抱えられて、レイヴンが慌ててロッカーに私ごと入り込んだ
向かい合わせの状態で手狭なロッカーのなかである意味2人きり
すぐ近くには多分お客さんがいる状況で、目に滲んだ筈の涙は驚きで引っ込んでしまった
出るにも出られなくなった状況で、小声でレイヴンに話しかける


「な、なんで…!?」
「泣いてたら脅かし様がないでしょ?」
「そうだけど…?なんで…先生が…」
「木村、今有志発表」
「え…?」
「メッセージ送っても返信ないって佐藤が言ってたけど姫携帯は?」
「うっ…充電中です…」
「ほんで、俺様が急遽ピンチヒッター」


コソコソと会話をしていると徐々に女の人の声が聞こえて来た。
向かい合わせから身体を反転させてロッカーのちょっとした隙間から覗くと暗いが、2人組の学園の女子生徒がビクビクとしながら近づいてくるのがわかった。
ゴールあったよぉ…と辺りを警戒しながらゆっくりとこちらに近づいてくる
後ろには私にぴったりとくっ付いたままのレイヴン。
お化け屋敷のキャストなのにバレては行けないスリルが私を襲う

「ど、どうしましょ…」
「出て行くにいけないわねぇ…ところでさ、ちょっと短すぎない?」
「え…?」

バレたらマズいのはレイヴンもなのに、何故か私のお腹辺りと腿の辺りをレイヴンが手を回して来た
雰囲気作りにビリビリとまではいかないけれど、セーラー服の裾を適当に切り落としてみたり、コスプレ用なこともあってスカートは短めだ
お腹と腿を撫でながら耳元にレイヴンが息を吹きかけて来た

「ぁっ…!」
「声出しちゃバレちゃうけど」
「んっ…ゃぁ…」
「姫」

ロッカーの外にいる生徒にお構いなしにレイヴンは私の身体を撫でる
変な緊張感と密着状態な所為で変に高揚感が私を襲う
学校ってだけでスリルしかないのに、良く知っている指が腿の付け根辺りに触れて頭が真っ白になりそう

「もう何もないのかな…?」
「早く出ちゃお…」

ロッカーの前から早々と出口の方へと向かって行った女子2人はまだなにかあるのでは。となかなか外へ出て行ってくれない。
声が漏れない様に手で抑えて必死に耐えている私に興奮するのか、なんなのかレイヴンはなかなかやめてくれない
さわさわと触る指が胸の方まで来た瞬間、堪えられなくなって膝がガクリと折れそうになる。
それをレイヴンは支えてくれて、顎を持たれて唇同士が重なった。

「んっ…」
「…はぁ」

漏れる吐息と、隙間から僅かに漏れる明かりでレイヴンの顔が見えた
挑発的な目と目が合ってドキリと胸が跳ねた
もう一度顔が近づいて来て、もう身を委ねてしまおうと思った所で支えられていた身体がバランスを崩して、手で押さえようとすると勢いよくロッカーの扉が開いてしまった。

「「あっ…!」」

バンッと大きな音を立てて全開になったロッカーに一気に血の気が引く
マズい!と出口の方を恐る恐る覗くと、キャーっと思い切り悲鳴を上げながら女子2人はこちらを見ることもなく出て行ってしまった。
危なかった…

「あっぶねー!」
「ぁ、ぁ、…あっぶねー!じゃないですよぉ!!」

出て行ったことを確認してからレイヴンは少し焦ったように頭を掻きながらロッカーから出て来た。
ドッと羞恥がこみ上げて来て私は小声ながらも声を上げる
ごめんごめん。とレイヴンが頭を撫でて来て、むっとしてみせると肩を抱かれた
おどろおどろしい雰囲気のなかだし、教室内で誰かしらいるというのに接近してくるレイヴンをよけていると、出口側の扉がガラリと空いた。

「…姫〜?お疲れさまでした!今のが最後の……お邪魔でしたか…?」
「いやー最後のはいい悲鳴だったね〜!ん?エステルどうかした?」

扉を開けて顔を出したのはエステルで、私とレイヴンを見るなり一瞬硬直していた。
ブンブンと首を振って後から顔を出して来たマイコちゃんが首を傾げている
あははは…と苦笑いを私とエステルは決め込むしかなかった
邪魔をされたからかレイヴンはちょっと残念そうな顔をしてたけど、ここ学校ですからね…!?





「最後出てくるの遅かったけど、先生どんな脅かし方したの?」
「んっ!?あ〜ロッカーにずっと隠れてた…?」
「なんで疑問系…?てか姫なんか顔赤くない?」
「きょ、教室のなか暑かったからかな〜?!」
「ま、まあ…なんとか今日一日終わって良かったですね!姫は明日も大忙しですし」
「パティたち来るしね!」
「それもそうだけど、ミスコンあるでしょ!」
「あ…!忘れてたぁ!!」


お化け屋敷に頭いっぱいで、散々イヤイヤリハーサルもしたから忘れる筈がないと思っていたミスコンを私は忘れていたことにマイコちゃんの一言で気が付いた
パティたちを案内しながら遊ぼうと思っていたのに一気に落胆したのは言うまでもない



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