小春日和。
なんて言葉がうってつけな昼間。
俺の住んでいるマンションの前に丁度トラックが停まっているのが見えた。
そりゃそうか、春は引っ越しのシーズンでもあるしトラックが停まっててもおかしい事なんて何もない。
そう言えば俺の家の隣も空き家だったなぁ、もしかしたらお隣さんかしらね。


男はふと、自らの手で腰を抱いている女に適当に相づちを打ちながら器用にもそんな事を考えていた。
隣にいる女とは特に深い関係もなく、まあ言うなれば利害の一致で時たま会うような仲である。
教師でありながらなかなか素行の悪い男は、持ち前のキャラと話術で学園からの目も掻い潜って女性との戯れを楽しんでいた。


後もう少しでお楽しみの自分の部屋までたどり着く。なんて思いながら
引っ越し業者にエレベーターを譲ってもらい降りれば、先ほど考えていたお隣さんが今日の引っ越しトラックの依頼人だったようだ。
自分は角部屋故に通らざるを得ない。


「あらまぁ、本当にお隣さんだったわ」


思わず呟く。
引っ越し業者の声とは別に玄関の前あたりで、それはこっちに、それはあっちに!と業者にレイアウトの指示を出している声が聞こえた。
どうやら女性のようだ。


業者を避けながら開いたままの玄関をチラッと覗けば、腰まであるであろう髪の毛を一つに結んで指示を出している女性?少女だろうか。がいた。
チラッと覗いただけのつもりが玄関にいた彼女に男は目を留めており、彼女も男の視線に気がつく。


「…あ、すみません。お騒がせしております。」
「…あ、全然いーのよぉ〜!」
「隣に越して来た高瀬姫です。よろしくお願いします。」

このご時世に引っ越しの挨拶なんて女性からあまりするものではないので多少面を食らった男は、ひと呼吸置いてから口を開いた。


「俺はレイヴン。よろしくねぇ」


ヘラっと笑って手を挙げれば、隣人は小さく頭を下げた。
ほんの少しだけ新しい隣人と挨拶をかわしていただけというのに、隣で腰を抱いていた女は
はやく、行きましょうよ!とレイヴンを急かした。
それじゃあ、また。と彼女に短く挨拶をして隣の自宅へと女と共に入った。



あの子どこかで見た事あるような…
気のせいかしら…?
でも見間違いじゃなければ部屋の奥に立てかけられていた布をかぶった細長い形状のものは恐らく自分が良く知っているものだ。
むむむ。


と、部屋に入ってから女の話に生返事をしながら考え込むと、それに気がついた女はご立腹で
これはいかん、とご機嫌を取るべく女に甘い言葉をかけながら触れた。
脳裏には二言ほどしか交わしていない隣人を思い浮かべながら。






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