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「しばらくお触り禁止です!!」


突如可愛い恋人の口からそんな言葉が出て俺は硬直した。
こと発端は今日の数学の小テストらしい。
なんでも今回の小テストはアレクセイの意地悪問題が多発したらしくクラス全体の平均点も芳しくなく、学年でトップクラスであるはずの姫ですら平均点を越えるのがやっとだったらしい。
担任だからかアレクセイに小テストの結果を帰り際にネチネチ言われた。
話半分で帰宅してバイト先に迎えにいけば剥れているもんだから頭でも撫でてちょっと宥めれば少しは機嫌が良くなるかと思えばそれは思い違いで
…まぁ、それは安直な考えだったのは反省する。
撫でようとした手は宙を切って行き場を失い、スルリと俺の横からすかさず避けた可愛い恋人はヤケになってか冒頭の言葉を口にした。


「き、急にどうしたって言うのよ」
「今日の小テスト、全然ダメダメだったんです!今まで勉強だけは頑張って来たのに…エステルと…山田くんにまで点数負けて…」


2週間後の学期末試験が危うい、そう思ったらしい。だからと言ってお触り禁止になってしまうのはなんだか納得がいかない。
俺の存在が彼女の勉強の妨げになっているとでもいうのだろうか。それは流石におっさんでも傷つく。
教師であるんだからもちろん姫の勉学の邪魔はしてはいけないのがまず一番だ。
現に一緒にいる時に勉強をし始めた彼女の邪魔はしたことはない。
なのに何故急にお触り禁止などという法令が出てしまったのか。


「俺って姫ちゃんの勉強のお邪魔してた…?」
「ちが…そんなんじゃないんです…!これは私の問題で…」
「先生としてはもちろんそれに尊重したいけど…恋人としてはなんだか世知辛い…なんて」
「うっそれは…私もそうなんですけど…」


お?この反応は姫も不本意らしい。回りをキョロキョロと見渡して家にまず帰りましょう!と慌てて小走りになる彼女を後ろから追いかける。
俺らのマンションの付近はそれなりに個人営業のお店もあったりでバイトが終わる時間帯は思いの外、人通りが多い。
たまにすれ違うサラリーマンの目を気にしてなのか少し恥ずかしそうにする姫を見るのは悪くない。
にしてもお触り禁止ねぇ…気が重い。


「とりあえず着替えるので座って待ってて下さいね」
「はいはーい」
「覗いちゃダメですよ!」


こんな会話は日常茶飯事だ。ふざけて一回覗こうとしたら姫の大目玉を食らったのは記憶に新しい。
お触り禁止だなんていいながらすんなり部屋にはあげてくれるんだからまだ希望はあるのか?
パタパタとスリッパで床を鳴らしながら脱衣所の方から出て来た彼女にいつもの癖で自分の股の間に引き込もうとすれば少し顔を赤くしながら首を振られた。
もう既に始まってるのか


「ダメですっ!」
「そんなに力一杯拒否ることないじゃないの…!」
「だって…」


だって?と反復すれば更に顔が赤くなる。
少し離れて座っている姫との距離を詰めて顔を覗き込めば小さく呻いた。


「レイヴンと一緒にいると…レイヴンのことしか考えられなくなって…ドキドキして集中できないんです…」
「は…?」


なんだこの可愛い生き物は。要は俺と一緒にいる時に勉強してても俺がいるからなんだか集中できない、と?
俺のことで頭がいっぱいになると
嬉しいのか悲しいのかと聞かれれば嬉しいに決まっている。
恥ずかしそうに小さくなりながら呟く姫を我慢ならずに抱き込んでキスをすればさっきのように抵抗をされることはなかった。
そんな風に彼女の脳内がなってしまっていたなら仕方ない。ここは大人になるべき所ってやつだ。


「ごめん、つい可愛くて…」
「…ずるいです、ダメって言ったのに。されたら拒めません…」
「姫ちゃん…それ以上は危険だわ…わかった期末が終わるまでおっさん大人しくしてる。」


頑張るんだよ。と頭をひと撫でして身体から離れれば一瞬表情が曇ってすぐに笑顔に戻った。
いちいち反応がいじらしい。
一緒にご飯を食べられる時は食べて後は解散、それがルールになった。お触り禁止だけれどご飯くらいは一緒でもいいらしい。
というか遠慮しようとしたら是非!と懇願された。
ああ、早く期末なんて終わってしまえ。



△△△


学期末試験まであと数日。試験前最後の部活を終えて帰り支度を済ませているとスマホが震えた。
差出人は姫だ


18:10『今日明日にかけて急遽エステルの家で泊まりがけで勉強することになりました!フレン先輩が勉強教えてくれるみたいで…ユーリ先輩も一緒です』


根をなんとか上げることなくこの数日お触りなしで過ごして来た
晩飯を食べている時に聞いていたがまあそれなりに勉強も捗っているらしい。
食べたらほとんどすぐに解散しているもんだから結構寂しい訳で、一瞬連絡をすぐ返すか躊躇った。
勉強俺も教えてあげられるのに…なんて生徒と張り合ってしまいたくなる気持ちは押し込んでもう一度スマホを開いて帰りは迎えにいく。と伝えた。
期末、早く終われ。


△△△


今日の俺の気分は最高だ。
やっとこさお触り解禁日になる。(本人から言われた訳じゃない)
長かった、それはもう。
この最後の教科が終わればHRをして生徒たちは帰宅だ。
部活も今日まで休み、姫もバイトは入れてなかったはずだし早いとこ今日の雑務を終わらせれば17時には俺も帰路に着けるわけだ
試験日の4日間は晩飯も一緒に食べていない、俺は絶賛恋人不足中だ
もうじき終礼だ、もう問題を解き終えて最後の見返しをしている姫を盗み見ていると鐘がなった。


「はい、おつかれさん〜後ろから答案回収して」
「あ〜終わった〜」
「また明日から部活か…」


答案を回収しながらHRにゆるく持ち込むと試験から解放された生徒たちは口々に思いのたけを漏らす。
簡単にこの場を締めると同時に生徒たちは帰宅するかと思えばマイコを筆頭に集まり出した。
なんだか嫌な予感がする、と思えばそれは的中だ
どうやら試験打ち上げをするらしい、カラオケだー!とクラス中が盛り上がっているなかに姫の姿もあった。
友達付き合いは大事だし、打ち上げにもともと参加する予定だったみたいだし少しだけ彼女に触れられない時間が延びてしまったらようだ
教師らしく、ハメを外しすぎないように!とだけ伝えて職員室に戻る。
もう少しだ、頑張れ俺


なんだかんだで作業が立て込んで帰宅したのは19時半、エレベーターに乗り込んで真っすぐ自分の家の扉まで歩いて鍵を取り出す。
隣の部屋の明かりはまだ点いていない、姫はまだ帰ってないのか?
スマホを覗いても連絡が来ている感じでもないし、それにまだ19時半だ心配するにしたって過保護すぎるにもほどがある。
ガチャリと扉を開けて慣れた手つきで玄関の明かりをつけながら靴を脱ぐと普段はケースに靴をしまい込んでいるはずが一足だけ小さめの靴が置いてあった。
バタバタと小走りで居間の方へと行くが姿はなく、電気をつけて部屋のどこかにいるであろう姫を探す。
上着をハンガーにかけてベッドの方まで近づくとベッドの中が膨らんでいるのに気が付いて俺はそれをゆっくり剥いだ。


「みっけた!…ん、寝てる?」
「んぅ…」


寒かったのか剥がされた布団を探しながら手が宙を切っている、覚醒しているわけではないらしい。
俺のスウェットを抱きしめながら布団を探している様は可愛らしくて横に座って撫でてやれば気持ち良さそうに少しだけ微笑んだ。
額にキスをしようと覆い被さって頬に手を添えてちゅっと音を出すと今度はくすぐったそうに笑っている。


「起きてる?」
「……」
「…試験お疲れさま……っおっと!?」


着替える為にその場から離れようと立ち上がろうとした瞬間思い切り腕を後ろに引き込まれて姫の横に倒れ込んだ。
薄ら姫の目が開いていて、眠った振りをしていたのかと困ったように笑えばまだ眠たそうにふにゃりと頬を染めて破顔する。
そのまま腕を前に広げてやればのそのそと俺の胸の中に収まってむにゃむにゃ喋り始めた。


「せんせ、おそいです…」
「え?あぁごめん…でも打ち上げあったでしょ?」
「そんなのすぐきりあげたもん…」
「へぇ…なんで?」
「んー…いじわる」


珍しく俺にデレデレとしてくるのでわざと知らん振りをしてみればいじけて背を向けられてしまった。
心なしかぷくりと頬が膨れている。我慢の限界だったのは俺だけじゃなかったらしい。
身体を持ち上げて姫に覆い被さり今度は唇にキスをしてやると照れくさそうにしながら目を細める、多分俺も同じ顔してるんだろうなんて分析する冷静な俺には一旦退席を願おう。
今日は明日に支障が出ない程度のお触りは許してもらえそうだ。


「さてと、姫。俺様大人しーくいい子にしてたんだから覚悟してよね」
「…えっ…?」



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