彼の気持ちは


担任に言いつけられた学級委員長としての仕事を済ませて教室に戻ってくると、私の女神である桜井さんの姿が無かった。

おかしいな、お昼休みはいつも教室で桜井さん自身の手作りだという美味しそうな弁当を友達と食べている筈なのに何処に行ってしまったのだろう。
今日は確か委員会じゃないはずだよな?

私が首を傾げていると、何かを察したらしい雷蔵が体調不良で保健室に行ったと教えてくれた。

朝はあんなに体調が良さそうだったのに…。

もしかして風邪でも引いていたのだろうか。桜井さんの変化に気がつけないなんて私の目は節穴か?前世から出直したい。

比喩じゃなく実際に胸が張り裂けそうなくらい彼女が心配なのだが、まだマトモに話した事が無い私がいきなりお見舞いだよと言って保健室に行くのは流石に難易度が高い気がする。

(でも、昼休み、終わっちゃうな)

もしこのまま早退という事になってしまったら今日はもう会えないのでは?
いや、それは辛いぞ。

ええい、一体何を悩んでいる鉢屋三郎!
学級委員長として様子を見に来たとか言えばいいじゃないか!!

(よし)

グダグダ考えるのは止めにして、私は保健室に向かう事にした。


___

「やぁ鉢屋。どうした?怪我?」

意を決して扉を開けてみると、そこには驚いたように此方を振り返った桜井さんと保健委員長の善法寺先輩の姿。
桜井さんなにその顔めっちゃ可愛い。
どうしよう、私死ぬかもしれない。

とりあえず平静を装いながらお見舞いに来たという旨を伝えると、彼女は少し恥ずかしそうに食べ過ぎだと教えてくれた。

(なにそれ萌える)

いや、食べ過ぎだよ?食べ過ぎ?
なにその理由とんでもないな。
可愛さが天元突発してる。
これ以上私のHPを削るのは勘弁してほしい。

そして…ついにまともな会話ができたぞ!!!!!!!やったね雷蔵!家族が増えるよ!!!!!!!

これは式場予約しとかなきゃな。

「鉢屋、今日の放課後の予定は?」
「特にはありませんけど?何かありました?」

脳内で桜井さんの花嫁姿を想像して感動にうち震えていたら、善法寺先輩から声をかけられた。

先輩が放課後の予定を聞いてくるなんて珍しい。どうしたんですか、と私が尋ねるよりも先に善法寺先輩が何やら剣呑な表情で口を開いた。

「小波を家まで送ってあげてくれないか。少々ヤボ用でね。僕がボディーガードしてあげてもいいんだけど、生憎今日はとある人と食事する用事になっていてね」

「は?私がですか?ボディーガードって?」

「ええええ!いいのいいの鉢屋くん私大丈夫だから!!ひ、一人で帰れるから!!大丈夫ですよ伊作先輩!!し、心配しすぎですってば!!」


全然話が見えない。
ていうか桜井さんを家に送るとか何その素敵イベント…!!
でも、何故そんな話になったのだろう。

私の表情を察したのか善法寺先輩は話を続ける。

「そうはいかないよ。小波は今ストーカーに狙われているんだよ?」

「……え?ストーカー?桜井さんストーカーに狙われてるの?」

「ひええええ大丈夫ですってば!!」


ちょっと待ってくれ。
今凄く不穏な言葉が聞こえたぞ。
ストーカーだって?
一体何処の誰だ、私の可愛い可愛い桜井小波さんをストーカーしているクソファッキン野郎は!!!!!!
一体いつからその被害に合っているのだろう。可哀想に。怖かったろうに。

「それなら話は変わりますね。いいですよ。じゃぁ桜井さん、今日は私と一緒に帰ろう。雷蔵達には私から言っておく」
「え、あ、そ、その……すいません…」

ぎゃあぁ!!可愛い!!怯えたような桜井さんも少し可愛いなって興奮してたけど、今私を見て少し微笑んだよね?!?!誰か今のシャッターチャンスおさえた?!ねぇ?!

あー、こんなに可愛かったらそりゃストーカーにも狙われる。間違いない。

今日は私が紳士的に安全に家まで送り届けるぞ!!雷蔵!見ててくれ!!私はちゃんとその使命を命に代えてもやり遂げる!!!!!

桜井さんと私の家の方向は真逆だけど、毎朝散歩がてら彼女の家の近くまで行ってるから地理はバッチリだ!!

ていうか二人で帰るなんて端から見たら付き合ってるように見えるんじゃ…?


(私の命日は放課後になるかもしれない)

心臓が爆発しそうなくらいにバクバクいっている。

「教室戻れる?」
「うん、もう大丈夫」
「良かった。じゃぁ先に戻ってるね」

ありがとう、という彼女の声を背中に受けながら私は平静を装いつつ保健室を出た。



____

書きながら切ない気持ちになりました。
どうしてでしょう…この風…少し泣いています…。

海苔千代

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