初めての○○


「しかし小波もストーカーだなんて不運だな!さすが不運委員会だ!」

「はっはっはっ、いやいや伊作先輩には負けます。はい。」

私の歩幅に合わせながらゆっくりと歩いてくれる七松先輩の隣、挙動不審に辺りを見回す私は端から見たら非常に怪しい事だろう。いや、自分からお願いしといて何だけどあの七松先輩と二人で帰ってるという状況とストーカーが要るかもしれないという緊張の板挟みで目眩がしそうだ。あ〜明日三年の女子の先輩方に「小平太とどういう関係なのよ」と囲まれたらどうしよう。友達です!と答えようものならその場でフルボッコは確定であろう。七松先輩のモテモテっぷりはそれくらい凄まじい。

確かに伊作先輩の後輩であるというだけでストーカー対策に協力してくれるような度量の大きい人だ。巷では暴君だの何だのと揶揄されているが結局老若男女に好かれる好青年なのだからそれも仕方のない事だろう。

「…小波!腹へってないか?そこの角に美味しい鯛焼きの屋台があるんだ!奢ってやるぞ!」

過度の緊張で黙りこくる私を心配したのか、七松先輩は真ん丸の瞳をで私の顔を覗き込みつつまるで太陽の様に笑った。
そして私の返事も聞かず屋台まで小走りで近づき、店員さんと何やら談笑を交わした後にまた此方へと戻って来た。
その手にはホカホカ焼きたての、鯛焼き。

「ここはアンコがお薦めだぞ!
小波は頭と尻尾どっちから食べる派だ?私は腹からだ!」

ニコニコ笑っている七松先輩は言葉通りにお腹からガブリとかぶりついた。
ああ、気を使ってくれてるのだ。

その優しさが嬉しくて私は思わず口元か緩んでしまう。


「…私は背中からですね」

「長次と一緒だな!」


中在家先輩との意外な共通点。



―――――


「なぁ」


二人で鯛焼きを食べつつ、そろそろ我が家も見えてきた頃合いでムシャムシャと口元にアンコをつけながら咀嚼していた七松先輩かふいに声をあげた。
どうしたのだろうと視線を向けると先輩は何時にもまして真剣な顔で私を見詰めている。





「小波が私の彼女になったと言うことにしたらストーカーも居なくなるんじゃないか?」

「なっ…?!」


何を言ってるんですか?!と叫びたかったが、現在口のなかには鯛焼きが詰まっている。思わず噎せてしまった。そんな馬鹿な。

「フリで良いんだぞ?
わざわざ私の女に手を出そうという奴はいないだろう!なっはっはっ!」

確かに!
余りの勢いに思わず納得しそうになったが待ってほしい。そこまで迷惑をかけてしまって良いのだろうか?幾らなんでも先輩にそこまでやってもらうのは些か心苦しい。それに七松先輩の彼女とか例え嘘でも恐れ多くて泣きそう。

「小波が嫌なら他の方法を考えよう!」

「そ、そそそうですね!別の方法を!」

「そういえば長次にストーカーは見つけ次第殺せと言われているんだが」
「七松先輩是非私の彼氏になってください!!!!!!!!!!!!!」


やばい七松先輩に前科がつく。
あれ?確か中在家先輩って七松先輩の手綱握ってる人じゃないの?なんで後押しするの???????????

いくらストーカーだからって七松先輩によって殺されるのは忍びないっていうかあの人ならマジやりかねん。

勢いで出た言葉に自分でもビックリしていると七松先輩はそうか!と嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「じゃあ今から私達はカップルということだな!あ、もちろん周りにフリだと言っては駄目だぞ!それから私の事は小平太と呼べ!!!!」
「いきなり難易度高いですヒギィ」
「細かいことは気にするなー!」


桜井小波17歳。
ストーカー対策のフリとはいえ人生初めての彼氏ができました誰か助けてください。


――――
食満:鯛焼きは頭から食べる。尻尾から食べる派を馬鹿にしてる。

潮江:鯛焼きは尻尾から食べる。尻尾のサクサク感がたまらない。

伊作:猫舌なので半分に割って食べる派だが大体メインのアンコを地面に落とす。

立花:大判焼き派


海苔千代


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