深緋色の思いやり

「っつ・・・・・・!!」
それは、突然襲ってきて。私は気持ち悪さに前屈みになる。
最近徹夜漬けだったから、無理が出たのかも知れない。
隣でのんきに鼻歌なんか歌ってるファーブニルを横目で見て、理不尽に殴りたくなった。
斜め上の席で、律儀にエックス様に紅茶を出しているファントムに助けを求めようと見つめてみたが、
気が付いていないようだ。
もう、こういう時だけ頼りにならないんだから!
もういいや。会議終了まで耐えて、終わったら速攻で部屋に戻って休もう。
そう思ったのに、急に体が震えてきた。
――その時
「おい、おめー大丈夫か?」
声を掛けてきたのはファーブニルだった。確かに隣の席ではあったけど、
脳筋のこいつが気が付くなんて、意外。
「大丈夫よ。少し、疲れてるだけだから・・・・・・」
「うそつけ。青い顔で何言っても説得力ねーぞ。エックス様ぁ!」
私が止めるのも聞かず、この脳筋はでかい声を上げる。
何?と紅茶を飲みながら訊ねるエックス様に、ファーブニルは続けた。
「レヴィアタンが体調悪いみてーなんで、部屋に連れて行きます!」
「ああ、良いよ。レヴィ、お大事にね。」
「ちょっと!」
私が何かいうのも聞かず、ファーブニルは私の手を引っ張り部屋を出た。
元々体力バカのこいつに、力で勝つこと自体が、到底無理なのだ。
私はもう全て諦めて、大人しくファーブニルに付いて廊下に出た。
「おい。」
廊下に出た途端、いきなりファーブニルに、とても怖い顔で睨まれる。
「な、何よ。」
体調が悪いのも相まって、私は叱られた子供のようだ。
「何で、具合が悪いのを言わなかった。」
「だって・・・・・・みんなに心配掛けたくなかったのよ。悪い!?」
そう反抗するも、バカか、と切られる。
ああ、だからコイツとは馬が合わないんだってば。
「それが一番心配すんだ、分かるだろ?もうごたごた言ってねーで部屋で早く休め。
休むまで、オレは付きまとうからな。」
「分かったわよ。」
結局部屋まで付いてきたファーブニルに見守られながら、私はベッドに入る。
着替えるときは、流石に追い出したけど。

―――どれくらい眠ったのだろう。

仄かに漂う良い匂いに誘われて目を開けると、土鍋を持ったハルピュイアが居た。
「具合はどうだ?」
「だいぶ、良いわ。」
私はベッドから上体を起こす。
まったく、脳筋バカにも困るわよね、と私がおどけて言ったが、ハルピュイアは神妙な顔で返してきた。
「ファーブニルもな、バカだけどあまりバカにしたものじゃないぞ。
お前は――俺達の中で唯一の女性だし、最年少だ。女扱いされたくないお前の気持ちは分かるが、
たまには――甘えろ。」
そんなことを言われて、私は何も言えなくなる。
ファントムも、ファーブニルも、ハルピュイアも。勿論エックス様も、私の事を大事に思ってくれて居るのは
痛いほど分かっていた。でも、幼い私は、まだまだ素直になれないのだ。
「・・・・・・努力はするわ。」
苦笑いで答える私に、強情だな、とハルピュイアも苦笑いで返した。

 元気になったら、あいつにクッキーでも作ってやろうかしら。
バカみたいに素直で、バカみたいに優しいあいつは、きっと喜んでくれるから。

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