ワーキング×ワーキング
朝。郵便受けを覗くと、新聞と一緒に自分宛の封筒が入っていた。
差出人は、先日面接を受けた事業。
もちろんアルバイトはしているハルピュイアだが、中々、定職に就けないで居るのだった。
恐る恐る、封を開く。
『拝啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
先日は、当社入社試験にご応募頂き誠にありがとうございました。
厳正なる選考の結果、残念ながら採用を見送りましたことをご通知致します。
末筆ではありますが、今後のご健勝をお祈り申し上げます。』
思考停止。ハルピュイアは暫く玄関先で固まっていた。
そこへ、ランニング帰りのファーブニルが、肩から白いタオルを提げて入ってきた。
「よおーハルピュイア!朝からしけた顔してんな−!ん?何だこれ?」
ずいっと許可も無く、ハルピュイアの手元の不採用通知を覗き込む。暫く文字を追いかけていたファーブニルだったが・・・・・・
「あーはっはっはっは!おめ、”また“落ちたのか!」
だらしねーなーとファーブニルが思いっきり笑い飛ばす。
ハルピュイアは。いつもの気難しい顔に、さらにしわを寄せた。
「ファーブニル!貴様にはデリカシーが無いのか!今日という今日は・・・・・・!!」
「おー!?やるかー?」
朝から玄関先で乱闘を始めそうになったバカ二人に、妖将の鉄拳が飛んだのは言うまでも無い。
「しかしお主、面接は上手く行った、大丈夫だと言っていたではないか。」
朝食後、皿を拭きながら言うのはファントム。コピーエックスが用意したらしい割烹着だが、何というか、凄く似合ってしまっている。
「俺が知りたい。」
ハルピュイアは苦虫を噛み潰したような渋い顔で言う。
因みに、朝食の時にそれをコピーエックスに報告したところ、立ち聞きしていたらしいレヴィアタンから盛大にからかわれた。
「仕方ないねハルピュイア、あまり、こういう手は使いたくなかったけど・・・・・・」
コピーエックス曰く、一人、昔からの知り合いが飲食店を経営しているので、そこを手伝ってみてはどうかという話だった。
「はい・・・・・・!エックス様、何でもやります!ありがとうございます!」
さっきまでの落ち込みは何処へやら。ハルピュイアは、灰から蘇った不死鳥のように元気を取り戻した。
「・・・・・・ところでエックス様、普段エックス様も働きに行かれているようですが、一体何処へ・・・?」
洗い物を終えたファントムが、手を拭きながら主に問う。
自室に戻ろうとしていたコピーエックスは、その問いかけにくるりと振り返ると、人差し指を唇に当て、妖しく微笑んだ。
「・・・・・・エックス様。まさか、危ないことに手ェ出してねえよな・・・?」
コピーエックスが去った後、呟くよう問いかけたファーブニルに、答える者は居なかった。
コピーエックスが紹介した職場というのは、街の小さな食事処だった。
良くある朱色の暖簾には『飯処 めしあ』と書いてある。
ふざけた名前だ。主はこんなふざけた店と知り合いなのか。
早くも頭痛がしてきたハルピュイアを尻目に、コピーエックスは着いたよ、と楽しげに店内に入って行く。
「オメガー、居るー?」
開店前だからか、客の居ない店内に、コピーエックスの少し高めの声が響く。
ややあってバタバタと店の奥から出てきたのは、エプロン姿の少女だった。
長い金髪を三つ編みにし、後ろで揺らしている。まさか、この可憐な少女が“オメガ”か・・・・・・?
「あ、ゼロちゃん。オメガ居ない?」
「・・・・・・兄さんは、今ちょっと出ている。」
ゼロ、と呼ばれた少女は、およそ少女にしては低めの声で呟くように答えると、
少し待っていろ、と二人を客席に座らせ、水を持ってきた。
と、そこへタイミング良くガラガラと扉が開き、背の高い男が入ってきた。
少女と同じ長い金髪だが、瞳は主、コピーエックスと同じ紅い色だった。この地域では珍しい方だ。
「あ、兄さん。」
「オメガ!」
主と少女が同時に言う。どうやらこの男が店主らしい。
主と違う、ぎらりとした輝きの紅い色に見られて、ハルピュイアは身がすくむような気がした。次の瞬間――
「おおー!友よ−!!」
「ヒィ!?」
ガバッと肩を抱かれて、ハルピュイアは飛び退いた。
オメガという男は嬉しそうに笑いながら大きな手でバンバンとハルピュイアの肩を叩く。
どうやら歓迎されているようだが。正直、かなり痛い。
涙目でむせていると。コピーエックスが、そのくらいにしてやりなよ?と嗜めた。
「おお、悪い。うちで働きたい奴が居るなんて、嬉しくてな。しかも、コピの部下だ。歓迎しない訳がない。」
“コピ”というのは、オメガが使っている、彼専用の愛称らしい。
それほどまでに主と仲が良いなんて、この男は一体何者なのだろう?
主人に聞くと、
「まあ、ちょっとした旧友ってところかな。」
とはぐらかされてしまったが。
「さあ急げ、手洗って爪磨けよ!エプロンは貸してやる。もうすぐ開店だからな!」
オメガとゼロに急かされ、ハルピュイアも支度を始める。と、そこへ
「悪ぃ店長、遅れちまった!」
聞き慣れた声が店内に入ってきた。
「ファーブニル!?」
見慣れたその姿に驚き、ハルピュイアは思わず声を上げた。
後ろに居るコピーエックスもおや、と目を少しだけ見開いた。
「げえ!?ハルピュイア!それにエックス様も!?何で此処に居るんだ!?」
驚く部下二人を見て、なるほどね、と呟くコピーエックス。
ファーブニルのバイト先とは、あろう事か飯処『めしあ』だったらしい。
「・・・・・・何で俺様がお前なんかと並んで皿洗いしなきゃいけないんだよ。」
「それはこっちの台詞だ。」
バイト終了間際、凸凹コンビ二人は、お揃いの店員用エプロンを着け、黙々と皿を洗っていた。
客が少ないと思っていたのはつかの間、夜になると、仕事帰りの客で店内はすっかり混雑し。二人は目を回しながら動き回った。
ファーブニルは注文を間違え、二回ほどオメガに叱咤されていたが。
二人が山のような皿をようやく片付けると。ゼロが三つ編みを揺らしながら現れた。
「今日はお疲れ様。これは今日の分の給金だ。・・・ハルピュイア、今日はありがとう。お前の完璧な配膳、兄さんが褒めていたぞ。
ファーブニル、荷物整理を手伝ってくれてありがとう。いつも男手は兄さんしか居ないから。力持ちのお前が居て本当に助かった。」
もし良ければ、また働きに来てくれ。兄さんも喜ぶ。ゼロが言い、二人はお礼を言って店を後にした。
――その帰路で。
「・・・・・・ファーブニル、働くって、良いな。」
ぽつり、とハルピュイアが呟く。
「ああ。違ぇねえな。」
朝はからかって悪かったな、とファーブニルも答えた。
僅かに重い給料袋は、二人の自身になるだろう。
そして今回の仕事により、ほんの少し、四天王としての絆を深めた二人だった
※言い訳
ロクゼロ小説を書き始めた、極めて初期に書いたものです。
オメガのキャラが今と違いすぎる^^;
文庫版とは大分異なるね
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[mokuji]
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