家にいても特にやる事もないので応接室に来たが、彼女は終始草壁に睨まれていた。
雲雀はそんな草壁の様子に興味が無さそうに呑気にお茶を飲んでいる。
『えっと……今度は私草壁さんに何かしましたかね…?』
「知らない。放っておけば」
『そういうわけには…』
何か誤解をされているのかもしれない。草壁に敵対視されてしまうのは彼女にとって雲雀と喧嘩するよりも一大事だ。
気など遣うわけもなくいつも通り見回りに行った雲雀を見送って、草壁と2人きりになった彼女。話し合いをしなければ、と彼女が話し掛ける前に、草壁が彼女に近付いた。
「……名字さん。昨日、跳ね馬と一緒でしたか?」
その一言で、何となく誤解されている内容を理解した。
『あ…はい。買い物行こうとしてたら偶然通りかかったみたいで…送り迎えして貰ってました』
「失礼ですが、どういう関係で?」
『ディーノさんは雲雀さんの家庭教師で、私のお兄ちゃんみたいな存在なだけですが…』
「…では、ヒバリの事はどう思ってるのですか」
『どうって…私の、好きな人…です』
改めて口に出すのは気恥ずかしく、思わず頬を染めて俯く彼女に誤解だと分かり、ほっと息をつく草壁。
「そうですよね…藪から棒に申し訳ありません」
『いえ、休日にディーノさんと一緒にいたから誤解させてしまったんですよね…?安心してください!私は雲雀さん一筋です!雲雀さん以外の人には1ミリもドキドキしません!』
「はい、どうかそのまま恭さん一筋でいてください。恭さんも喜びます」
「誰が喜ぶって?」
『…!ひ、雲雀さんっ!お…おかえりなさい…』
「……ただいま」
いつから話を聞いていたのか、ギロリと草壁を睨んでは彼女が座っているソファーの向かい側に腰を下ろす。
聞かれてしまったか、と内心バクバクしている2人を差し置いて、静かに目を閉じる雲雀。出て行け、と言われているような気がして、咬み殺される前に草壁は応接室から逃げるようにして出た。
草壁が出て行った直後、目を開けて彼女を見つめる雲雀にぴく、と反応してドキドキしながら見つめ返す。
「…哲が睨んでた原因は分かったの?」
『は、はい。誤解されてたみたいで、無事仲直りしました』
「誤解って?」
『私がディーノさんと付き合ってるんじゃないかって…』
「………」
余計な事まで話してしまい、はっと口を押さえるが時既に遅し。
また不機嫌になってしまった雲雀に慌てて弁解する。
「…また群れてたの、君」
『ち、違います買い物してたら偶然会って、ついでだからって車で送ってもらっただけです!私が好きなのは雲雀さんで…!』
「…!」
目を見開いて固まる雲雀に、ぶわっとこれ以上ない程真っ赤に染まり俯く彼女。
流れで告白してしまった。でも恋愛感情なんて知らないであろう雲雀に、好きと言っても伝わらないんじゃ…とゆっくり顔を上げた。
「っ…」
『ひ、雲雀さん…?』
彼女が顔を上げると思っていなかったのか、目が合い、真っ赤な顔を晒してしまう雲雀。誤魔化すように立ち上がり、背を向けた。
「……君、明日もバイトあるの?」
『え…あ、はい、朝だけ…』
「じゃあその後、僕の家に来なよ。咬み殺してあげる」
『咬み殺す!?群れてたからですか!?』
「さぁね」
そう言ってまた応接室を出て行った雲雀に、まだドキドキしながらその後ろ姿を見つめる彼女。
雲雀さんが、照れてた…?私の好き、伝わってる…?
雲雀の予想外の反応に僅かに期待を寄せながら、明日の本番の為に早めに家に帰った。
誕生日まであと1日!
咬み殺してあげる