だが今はそんな事を考えている場合ではないと
現実に戻してくれたのは紳士で有名な
男子生徒柳生くんが心配してくれたからである。

「完全に考え事してた」
「そうですか、すみませんが私は用がありますので失礼しますね」
「鍵あけてくれてありがとう」
「気にしないでください」

そう言うと彼は私がきた校舎の方へと戻っていった。
さて私は早く図書室に行くとしよう。

今通っている廊下の壁には学期ごとに
変わるお勧めの本の紹介が貼ってある。
そこには必ず柳くんお勧めの本も掲載されてあって
私は図書室にほぼ毎日通っていることもあり
新しく貼られている物をみつけては
たとえお気に入りの小説があってもまず柳くんが勧めている本を読む。

これがまたおもしろかったりする。
彼が選ぶ小説は私にとってもなぜか心にくるものがあったり
なにかを考えさせられたりするものがあって
なるほどなと感心させられる。

図書室のドアをあけるとクーラーの暖房のせいで
乾いてしまったなんともいえない空気と
しずかに本を読んでいる数名の生徒、真っ白な
ホワイトボードと本の貸し出しのために来ている図書委員。
すべてが見慣れている光景だ。

「あの人はまだきてないみたいだよ?」

声をかけてくれたのは図書委員長の幸村湊。
うちの学校でしらない奴はいないかの有名な
テニス部部長様の従兄弟だ。

「あたしは本を読みにきたの」
「嘘つき」
「はいはい」

今は相手をするよりも本が先だ。
いつも座っている場所はいつものように空いている。
ついでにいうと私が待ち望んでいる人はまだきていない。
ああ、なに期待してるんだろう私は。